guest
安藤 俊介●あんどう しゅんすけ
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事
アンガーマネジメントコンサルタント
ニューヨーク駐在時代に怒りの感情と上手につき合うための心理トレーニング「アンガ―マネジメント」と出合い、その手法を実践。日本人としてはじめてのナショナルアンガーマネジメント協会、アンダーソン&アンダーソン、MFTNY公認のアンガーマネジメントファシリテーターとなる。現在は怒りの問題を解決する専門家として感情理解教育「アンガーマネジメント」の理論、技術をアメリカから導入し、教育現場や企業などで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。アンガーマネジメントのトレーナーの育成にも力を入れている。『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『「怒りに負ける人、怒りを生かす人』(朝日新聞出版)など著書多数。
interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。
「怒っても好かれる人」の条件とは?
森:前回、アンガ―マネジメントを学ぶと怒るかどうかの線引きができるようになるとお聞きしました。では実際に怒りを感じた時、どうすればいいのかを具体的に教えてください。ご著書に「カッときたときは、とりあえず6秒待つ」とあるのが印象的でした。
安藤:脳の1番外側にある大脳新皮質が理性的な働きを司っていますが、感情が生まれてから大脳新皮質が介入して理性が働くまでに、3〜6秒くらいかかると言われています。
怒りを感じてすぐ行動すると怒りにまかせた感情的な行動になってしまいますが、6秒待てば、少なくとも何らかの理性的な介入ができるようになるわけです。そこで、怒りを感じてもひとまず6秒待とう、と話しています。怒りに点数をつけるのも効果があります。
私たちが怒りの感情をコントロールできない理由の1つは、尺度がないからです。たとえば気温でもで、今日と昨日の違いが数字で分かると「昨日より3℃低いからコートを着ていこう」と客観的に対処できますよね?それと同じでイラっとしたら1〜10点で点数をつけるくせをつけると、客観的に自分の状態が分かるようになります。「すごく頭に来た気がしたけど、実はたいしたことないな」と分かったりして、怒りの扱いがしやすくなるんです。
森:そうしてクールダウンしたり怒りの温度を点数化したりしてみて、やはり「怒るべきだ」と思ったら、どんなふうに怒ればいいですか?
安藤:怒る目的は、相手を言い負かすことではないし、言ってスッキリするためでもありません。怒るのは自分のリクエストを伝えるのが目的だと意識してほしいですね。怒るのは「今、何をしてほしいのか」「これからどうしてほしいのか」を伝える手段なんです。怒ると嫌われるんじゃないか、とか人間関係が悪くなると思っているようで、最近は怒ることに慣れていない人、怒らない人が増えています。
確かに感情に任せてののしられたり怒られたりすると人間関係が壊れて修復が難しくなりますが、基本ルールを守って怒ればそんなことにはならないはずです。怒っても嫌われない人っているでしょう?それは
①直に思ったことを言う
②怒るルールが明確
③仲間や誰かのために怒る
という3つのルールを守っている人です。前回お話しした「許せるかどうか」の自分なりの境界線をきちんと決めて、いつでも誰に対しても同じように怒ってください。部下に対してだけでなく、上の人にも同じように言うべき時は言うことが大切です。
この3つのルールの逆、つまり
①ここで怒っておけば相手が言うことを聞くかな」などと計算高く怒る
②相手や機嫌によって怒る
③自分の保身のために怒る
という怒り方をするとひんしゅくを買いますね。
“解決志向”で「どうしたら出来るか」を尋ねる
森:私の会社はまったく異なる分野の方が集まって仕事をすることも多く、いろいろな肩書やランクの人がいる中に入って
上手くコントロールしていく必要があります。自分の社員には厳しく言うけど他社の人には「いいよ、いいよ」と言ってしまうこともあると思います。
安藤:コントロールする立場なら、役割にのっとって怒るべきかどうかの線引きをして、他社の人も同じように扱った方がいいと思います。むしろその境界線を動かしてしまうと、自分の社員からも他社の社員からも不信感を買ってしまいますから。
先ほどお話しした「怒っても好かれる人」の3条件――素直で、いつでもどこでも誰に対しても同じに怒り、そして仲間の為に怒る。これ、いったい誰の怒り方だと思いますか? 実は少年漫画の主人公なんですよ。
たとえば『ワンピース』の主人公・ルフィみたいなタイプですね。ものすごく馬鹿正直に、相手が強くてもひるまず怒りますし、いつでも“仲間のため”ですよね。それから、怒っていいのは相手の行動、行為、結果に対してだけで、能力や性格に対して怒るのはNGです。たとえば遅刻した社員を怒る時「遅刻してはいけない」と言ってもいいけれど「だらしないから遅刻するんだ」という言い方は避けてください。それから人前で怒られるとプライドが傷つくので、1対1で怒るといいでしょう。
森:言ってはいけないNGワードはありますか?
安藤:その場、今起きたことに対して怒るのが基本なので「前から言おうと思っていたけど」など、過去を引き合いに出すのは避けたほうがいいですね。「なぜ」「なんで」という相手を責めるような言葉もNGです。「なぜ出来ないか」ではなく「どうしたら出来るか」というふうに、過去ではなく未来を聞くと相手も聞き入れやすくなります。
それから「いつも」「絶対」などという言葉を使って「お前はいつも遅刻する」とか「必ず遅刻する」といった100%断定の言い方をすると「この間は違ったのに」と反発を買うことがあります。
森:システム業界だと「なんで、なんで、を3回やってみよう」という考え方もありますが、それもよくないのでしょうか。
安藤:「なんで」を絶対使っていけないというわけではありません。怒り方には“原因志向”“解決志向”という2つの考え方があって、“原因志向”はなぜ出来ないのかを徹底して潰していく手法です。御社のように生産現場で因果関係が明確な状況なら、この手法が使えます。でも、人間関係など感情に関わる部分で「なんで」とやってしまうとつるし上げになりかねないので、“解決志向”で「どうしたら出来るか」を聞いた方がいいと思います。
怒りの連鎖に歯止めをかけ、住みやすい社会を目指す 一般社団法人アンガーマネジメント協会代表理事 安藤俊介氏に訊く【後編】