脇役に徹して笑顔を引き出すクラウン流コミュニケーションとは? プレジャー企画代表取締役会長 大棟耕介氏に訊く【中編】

guest
大棟 耕介●おおむね こうすけ
有限会社プレジャー企画代表取締役会長
NPO法人日本ホスピタル・クラウン協会理事長
1969年生まれ。筑波大学卒業後、鉄道会社を経てクラウン(道化師)のプロになりプレジャー企画を起業。抜群の運動神経で、その場のものを額に乗せるバランス芸などのパフォーマンスが人気。現在プレジャー企画は日本最大級のクラウンチームと似顔絵師という珍しい組み合わせの社員で構成されている。病院を訪問するホスピタル・クラウンの活動も行っており、著書『ホスピタルクラウン』は2008年にテレビドラマ化(フジTV)された。2008年WCA(world Clown Association)コンベンション グループ部門金メダル受賞。

 

有限会社プレジャー企画
NPO法人 日本ホスピタル・クラウン協会

 

interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

相手の言動を観察して、パフォーマンスに活かす

森:前回、病院を訪問するホスピタル・クラウンや被災地での活動をされていると伺いました。病気の子どもたちや被災した人たちは、どうすれば心が安らぐのか、喜んでもらえるのかを瞬時に見抜く力はどうやって培われましたか?

大棟:親からもらった先天的なものもあると思いますが、生まれ育った環境に恵まれたことも大きいですね。

先天的な部分でいえば、僕の家庭は公務員一家だったので、両親は道徳の塊のような人で、姉も優秀でした。その中で育ったから「大棟さんちの耕介くんはいい子に違いない」という周囲の目がありました。だから八方美人というか360度美人でいたかったし、後ろでこそっと囁かれる自分に対するマイナスの言葉を敏感に感じとって成長してきました。人の気持ちに対するアンテナの感度が高いことは、クラウンの仕事をする上ですごく活きています。

どの現場でも技術力の高さや豊富な経験も重視されますが、徹底的に技術を高める練習をしているし場数も踏んできたので、技術を意識せずに出せる、つまりほとんどの意識を観客に向ける余裕があります。たとえば僕は背中に手を回して後ろで風船を作るんですが、無意識に手が動いて風船を自在に加工できるから、周りを観察しながらパフォーマンスができるわけです。

病院や被災地での活動には、観客の気持ちを敏感に感じ取れるアンテナ能力と、技術力、そしてパフォーマンスの品数というさまざまな力が求められますね。現場ではたびたび、元気そうじゃない子は直ぐにいじらず、元気な子を引っ張り上げてその場の空気を変えることもありますね。

「今、どっちが必要だ」と臨機応変に対処しないといけない。病気と闘う子どもたちが相手だから子どもの体調や気持ち、そして親御さんの気持ちもそれぞれだし、病院や医療従事者の思いも絡んでくるので、病院での活動は非常に難しいです。

森:今は病院と被災地が活動の主体ということですが、ほかにサーカスなどにも出演しているんですか?

大棟:僕の活動は病院がメインです。定期訪問も多いですが、新しい病院を開拓するためのプレゼンテーションも行っています。被災地での活動も続けていて、熊本にも既に2回行きました。(2016年6月末現在)

クラウンはその年齢なりのパフォーマンスができるので、旬は特にありませんが、そろそろ次世代に道を譲る時期だと思っているので、サーカスでの活動は減りましたね。うちには今78歳のクラウンがいて、舞台でも杖をついて歩きます。演技じゃなくて本当に杖をついていて、ちょっと歩くとぜいぜい言うし、舞台の下手から上手に歩くのに3回くらい止まるんですよ。

ただ疲れているだけなんだけど実にいい演技に見えるし、彼がステージに上がるだけで笑いが起きて、すごく柔らかい空気が生まれる。動かない役のときに、ステージの上で寝ちゃったこともありました(笑)。でもすごく愛されるし、その人しか出せない空気があって、勝てないですね。逆に若過ぎると面白くないので30歳を超えないとなかなかいいクラウンはできないのではないでしょうか。

コミュニケーションを円滑にするために、重心を低く

森:大棟さんは普段は舞台や営業で飛び回っていて、会社にいる時間は少ないですよね。会長として、社員とはどんなコミュニケーションを心がけていますか?

大棟:社長はほぼ会社にいてくれるので、社長と連携を取ることで社員の様子は把握できます。

ただ、毎日いる人間のできることと、たまに行く人間のできることは違うと思う。たまにしか行けない人の小さなひと言は大きな意味を持つと感じるので、量ではなく質を考えて社員に接しています。クラウンと同じで、この社員にどんな対応が必要かを考えて、普段いない分、ちょっとした挨拶だけでも効果があるような、そんな存在を演じようと思っています。

また、最近では社外向けにクラウン流のコミュニケーション研修を行っているんですよ。クラウンは感情表現が豊かじゃないといけないし、自分が今何の役回りを求められていてどのように振るまわなければいけないか考え、動作や表情で自分とは別キャラクターを作っていきます。

企業研修は、そうした振るまい方を実際に勉強したいということでお声がけいただいていてスタートしました。
相手を主役として立て、自分を脇役にしていくという「クラウン的マインド」がコミュニケーションをとる上で有効な考え方だと思うので、その考え方ややり方をお話ししています。

森:受講する方の年齢や、若手かベテランかによって内容は変えているんですか?

大棟:いえ、僕が話す内容は誰に対しても同じです。

最後の落としどころをCS(顧客満足)にするかES(従業員満足度)にするか安全大会にするか、または笑顔とか笑いでまとめるかなど、落としどころだけは変えますが、話していることはほぼ一緒ですよ。

ただ、受け止め方は人によっていろいろです。コンテンツの量が多いので、聞く人のその時の心の模様次第で、反応するところや刺さってくることが違うらしいんです。僕はあくまで芸人であって「講演会の講師ではありません」と言い切っているので、相手に合わせてどこかで習った話をするのではなく、自分の体験でしか話をしていませんから。

オヤジギャグとかダジャレってすごく大事で、バカにされると分かっていて、わざとくだらないことを差し挟みます。「今日この時間をどういう立ち位置でどういう雰囲気で聞けばいいのか」と身構えているお客さんを前にして、オヤジギャグを言って安心させるわけです。

緊張しているお客さんに軽くジャブを打つことで、楽な空気が生まれます。たとえば柔道やレスリングなどの格闘技もそうですが、重心が低い人は強いですよね。でも、筋力がなければ重心を低くキープすることはできません。それと同じイメージで、能力がなければ自分を下に置くことはできないと思っています。

森:お客さんより自分を低い場所に置くことで、皆の力が抜けて安心して話を聞けるわけですね。さて、次回はクラウンの採用や教育についても話を伺いたいと思います。

 

人間性重視の採用でチームパフォーマンスを実現 プレジャー企画代表取締役会長 大棟耕介氏に訊く【後編】