社長が幸せなら社員もお客さまも幸せになれる ミス・パリ・グループ代表 下村朱美氏に訊く【後編】

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下村 朱美●しもむら あけみ
株式会社ミス・パリ 代表取締役
1957年生まれ。池坊短期大学家政学科卒業後、アメリカ留学などを経て1982年に大阪でエステティックサロン「シェイプアップハウス」(現:ミス・パリ)を立ち上げる。86年に日本初の男性専用サロン「ダンディハウス」をオープン。現在は「ミスパリダイエットセンター」など全国150店舗の直営サロンを展開。90年には「ミスパリエステティックスクール」を開校してエステティシャンの育成にも注力している。05年「世界優秀女性起業家賞」受賞。

 

interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

社員を幸せにするためにはまずは社長から

森:前回、「お客さまが喜ぶであろう全てのことをやっている」という話を伺いました。
私は常々、社員が幸せを感じられる会社にしたいと思っています。順番としては、社員が幸せで満たされていれば、お客さまにより良いものを提供できるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

下村:私もそう思います。そのことに気づいたのは、年子の娘たちの子育てがきっかけでした。

家庭ではお母さんが太陽だから、家庭を明るくしようと思ったらお母さんがいつも元気でニコニコしていないといけません。
「子どものために何かしよう」「親が我慢する」なんて考えていたら、子どもはいい子に育たないというのが私の持論。だから、我が家はおいしいお菓子をもらったら、まずは“ママから”です(笑)。「ママが幸せになったら、皆が幸せだからね」って。

店も同じで、社員が幸せでないといいサービスは提供できない。そのためにはどんな辛いことがあっても「社長は幸せだ」と思い込むようにしています。私はサロンに愛の風を吹かせたいと思っています。人が幸せだと思えるのは、自分を認めてもらっているときです。

相手を幸せにするいい仕事をしていると実感できた時、社員は、自分は幸せだと思うようです。毎年ハワイでマネ―ジャーの営業会議を開催しますが、数年前、「朱美家族」と書かれたお揃いのTシャツを作ってくれました。大事にしてもらっているし、社員に幸せにしてもらっているから、私は日本一幸せな社長です。反対に社員には何かお返ししたいと思っていますが、なかなかできていないですね。

1つ上げるとすれば、社員の子どもが12歳になるまでは、クリスマスプレゼントを贈っていることでしょうか。去年は208人いましたが、年齢や性別に合わせて全部私が買いに行きます。春には本社の社員たちと花見をしたり、子連れで来てもらい料理を持ち寄ってワイワイしたりするのも好きですね。料理を持ち寄るときはもちろん私も作って持っていきますよ。

森:社長がそれだけ目をかけてくれれば、社員も家族も一丸となって会社を支えていると実感できそうです。会社の方向性や方針、社長の考えも社員に浸透していることが伺えます。

下村:折に触れて話もしますし、事業発展計画書に各部門のミッションを明確に書きますから、社員の頭の中には全部入っていると思います。ダンディハウスは何のために作って、ミス・パリはどんな目的で何をするところだと。自分たちはどこを向いてどんな仕事をしなければならないか、それを読めばぶれずに働いていけるはずです。

海外での事業拡大にチャレンジしていきたい

下村:今後のことですが、日本では人口増加に歯止めがかかっているので、海外に目を向けています。上海や香港など海外に支店を置き始めているので、40期(2022年)に海外と日本の売り上げを半々にするのが目標です。

それに向けて海外に強い社員を配置して店舗運営を強化しています。また、「心も体も美しく健やかな人づくり」がわが社の企業理念ですから、お客様が「こういうものがあったらいいな」と思う物をこれまで通りに作っていきたいですね。皆さんの心と体が美しくなることだったら何をしてもいいと思っているので、美容と健康に関わることであれば、いろんなことにチャレンジしていきたいと思っています。

森:海外に進出するときは、最初は日本人スタッフが赴任して足場を固めてから、現地採用しますよね。海外では日本と同じように教育するのは難しいですか?

下村:上海、香港、台湾、シンガポールなどにサロンがあって現地採用もしていますが、現地採用の人はまるきり文化が違うので、分かってもらうのに時間がかかりますね。

昔、外国人スタッフを育てたことがありますが、そのときに痛感しました。例えば、お客様がベッドから降りるときにはスリッパを用意しますが、うまく足が入らなかったときのために、技術室の床は寝転がっても大丈夫なほどきれいに手で拭いています。ところがその外国人スタッフは「どうして床をモップを使わず手で拭くのだろう」と思ったようで、足で拭いていて…! 「お客さまが歩くところを足で拭くなんて何ごとや!」と叱ったけれど、きょとんとしていました。「なんでそんなことで怒るの? きれいになったら同じじゃない」と。

でも、同じことでも、足で拭くのと手で拭くのでは、心が違いますよね。外国人のスタッフはできるだけ日本に呼んで、一定期間、日本の文化に触れながら、現場を見たり働いたりしてもらうようにしています。同じように洗濯や掃除をする機会を与えれば、「日本ではこういう思いでやっているんだな」と少しでも感じてもらえると思うからです。

ただ、外国人の教育には時間がかかるので、国にもサポートを要請しています。日本に留学している人の中には、日本を気に入って4年、5年と住んでいる人もいます。そうした留学生が就労ビザが下りないからと帰ってしまうのはもったいないので、ビザ要件の緩和をしてほしい…といろいろな方面の方にお願いしています。

そうして、わが社でも3年、5年と働いて、サービスや考え方を身に着けてくれたらいいなと思って。会社の存在意義や企業スピリットを理解できるまで日本で働いてほしい。そして、それを自国に帰って広めるというのが、海外進出のスピードがいちばん上がる方法だと思います。

森:日本で一流の技術を身につけて母国に帰れば、その人にとっても喜びでしょうし、その国の成長にもつながります。
ぜひ実現させてほしいですね。これからも、国内外でのさらなる飛躍や新たな挑戦に大いに期待しています!