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下村 朱美●しもむら あけみ
株式会社ミス・パリ 代表取締役
1957年生まれ。池坊短期大学家政学科卒業後、アメリカ留学などを経て1982年に大阪でエステティックサロン「シェイプアップハウス」(現:ミス・パリ)を立ち上げる。86年に日本初の男性専用サロン「ダンディハウス」をオープン。現在は「ミスパリダイエットセンター」など全国150店舗の直営サロンを展開。90年には「ミスパリエステティックスクール」を開校してエステティシャンの育成にも注力している。05年「世界優秀女性起業家賞」受賞。
interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。
理論が分かったうえで施術できる子を育てたい
森:私は常々「企業は人が命」と考えていますが、御社のようなサービス業はまさに人が財産ですね。今回は技術でもサービスでも定評がある御社の人材育成の秘密を教えてください。下村さんがシェイプアップハウスを立ち上げた頃と今ではエステティシャンもかなり差がありますか?
下村:エステ業界はいまだに資格がなくても仕事はできますが、そもそも「理論が分かるエステティックサロンを作りたい」という思いで起業していますから、起業8年目の1990年に小さなビルを建ててスクールを作ったんです。
当時、日本で1番長いエステの授業カリキュラムが30時間でしたが、私のスクールは114時間で、「誰がそんなに勉強するんだ」と言われたこともありました。現在日本では100以上の専門学校において、トータルビューティという形でエステティックが教えられていますが、日本で初めて専門学校にエステティック学科をつくったのはミス・パリです。そこで使う教科書もわが社で作っています。
今では2年で2085時間、3年で3085時間のカリキュラムを作り、教科書を電子テキスト化しています。生徒はiPadでスマートに学び、マッサージなども動画で見られる、最先端の教育を行っていると思います。毎年、学校の卒業生のうち約半数がわが社に入社してきます。昔は300時間勉強すれば、かなり腕のいい認定エステティシャンと言われましたが、それが1000時間になると「うわー、すごいな」という子たちが育ち、さらに2000時間になると「天才!」、3000時間になると「世界に誇れる」と思うような子たちが出てきました。
時間だけでは計れませんが、教育を受けたら受けただけのものが身についてくると手応えを感じています。
森:学校では知識や技能を教えることが中心だと思いますが、どんな点に特に力を入れて教育なさっていますか?
下村:エステティックは美学と訳しますから、いちばん大事にしているのは「美しい」ことです。サロンも学校も「ミス・パリ基準」に従って教育やサービスがなされます。見た目、心、肌、歩き方、しぐさ――
すべてにおいて美しいものを尊ぶ子たちを作っていきたい。授業の中にはバレエやオペラ鑑賞、美術館鑑賞もあり、お茶や生け花、サービスマナー、日本のしきたりなども学びます。お客様も目が肥えていて美しいものが好きな人が多いので、お掃除や花の生けかた1つにしても、お客様に少しでも近づいて喜んでもらえるように教育をしています。
当社の入社式には選び抜かれた新入社員が参列しますが、学校は、「勉強が好きじゃないから手に職を付けたい」という子も入ってきます。でも、先生達が入学前に全員の髪の毛を黒くさせ、入学式当日は夜会巻きにさせます。
「起立!」と言ったらピシッ! と立って2時間身動きもしません。ダラダラするなんて、あり得ない。感動しますよ。「こんな娘は見たことない」と親御さんもびっくりしちゃって。ほんの15分20分で先生達はそれをさせてしまいますから、すごいなぁと感心しますね。私自身も「これは絶対に許さない」というラインがありますから、学校にもそういうのがDNAに入ってるみたいです(笑)。
人に好かれる子を育てる
森:半数ほどの生徒さんが御社に就職すると伺いしましたが、入社後に下村社長自らが人間性の教育なども行うのでしょうか。
下村:学校としては卒業生にこの業界で大活躍してほしいと考えていますから、多くの生徒に進級、卒業してほしい。今は人間力が弱い子やコミュニケーションが苦手な子もいますので、社会人として生きていけるように鍛えています。
誰にでも馴染んでお客さまにも先輩にも好かれる子でないといけないので、そうした教育にはかなり力を入れています。いくら技術があっても、印象が悪い人に自分の体のことを任せたいとは思いませんよね。最初は技術や理論が足りないのは仕方がないことですが、それらはいつでも身につけられます。それよりも、お客様に丁寧に接することができるように、ということ何より大事に教えています。
清潔感がないと、それだけで不快に感じますよね。そういった「人から嫌われること」を全部排除していきます。たとえば服も靴も真っ白で、髪の毛もピシッとしていれば清潔感があって好かれます。化粧や爪の色、話し方や歩き方、立っている姿勢など、すべてにおいてお客様が「感じがいいな」と思ってくださるようにしていくわけです。
ミス・パリ基準のチェック項目を設けていて、それを徹底することによって、「誰にでも好かれる」という子を育てているのです。うちのサロンに来ると、苦労している中小企業の社長さんたちは特に「いい社員が揃っているね。日本にこんな若い子たちがいたんだ」と驚きます。だから社員は自慢ですね。
森:ミス・パリで教育を受けた人なら、どの世界でも通用しそうです。
下村:入社後の研修は、ビルが震えるほどの大きな声で行われ、その厳しさは、まるで軍隊のようです。1年も働けば「給料を倍にするから来てくれ」と言うところがたくさん出てきます。さらに、日本中のエステティシャンが「1度でいいから、ミス・パリのエステティシャンに会ってみたい」と言ってくださるんですよ。他の専門学校でも「ミス・パリ スタイル」と先生がおっしゃるようで、CMで披露した美しいお辞儀に憧れて、「ミス・パリ スタイルのお辞儀をするんだ」って生徒が真似してくれるようです。ある意味、ブランドです。うちのエステティシャンは気立てよく美人でよく働くから、皆さんいいところにお嫁に行くんですよ(笑)。