「一流の人間性と技術」を武器に笑顔の輪を広げる 有限会社プレジャー企画【後編】

「クラウン(道化師)と似顔絵師」という珍しい取り合わせのプロたちを育て、エージェント事業を展開する会社がある。愛知県名古屋市を拠点に全国で活動するプロ集団・プレジャー企画だ。社長を務める菱田さつきさんも、元はグラフィックデザイナーから司会業に転身した異色のキャリアの持ち主。同様に、まったくの未経験ながらクラウンや似顔絵師を目指す人がプレジャー企画の門を叩くという。プレジャー企画の人材育成の舞台裏や、社長就任4年目を迎える菱田さんの経営手法などについて話を伺った。

有限会社プレジャー企画

 

個性豊かなクラウン(道化師)と似顔絵師を育成し、全国のテーマパークや商業施設、結婚式場、ホテル、学校などに派遣。イベントやステージを演出して喜びのきっかけを作るプロ集団。講演会や研修、司会、ワークショップ講師などエンターテイメントや人材育成、教育などに関する事業も幅広く手掛ける。クラウンの世界大会で優勝、入賞歴のあるクラウンも多く、似顔絵師は広告媒体、新聞や雑誌、テレビなどでも活動している。

人としても一流のアーティストを育成

 クラウンや似顔絵の基本的な技術は養成講座の3〜4か月で身につくが、プレジャー企画では絵や芸だけを売るわけではない。「技術も一流、人としても一流であることがわが社の社是。技術とコミュニケーション力を総動員して心をこめたパフォーマンスを提供し、誰もが思わず頬を緩める場を作っていきます」と菱田さんは話す。

 そのためプレジャー企画で特に力を入れているのは、人間性や社会性の育成だ。「うちのクラウンや似顔絵師は1人でお客さまとの打ち合わせに行ったり、メールのやりとりもするから、社会人としての作法は必須です。電車に乗って遅刻せずに客先を訪問できないといけないし、最初はメールに顔文字やハートがピコピコ動く絵文字を使う子もいるから(笑)、ビジネスメールの書き方も指導します。イラストの専門家は“ずっと机に向かって黙々と絵を描くのが好き”という人も多いでしょうが、それだとうちでは通用しません」。

 もちろん、技術に加えて華がある人は人気が出るが、コツコツと努力して技術を磨き、人間的に慕われる人は少しずつ指名が増えて“食べていける”までに成長する。逆に技術があっても人間力や社会性が低い人だと採用に至らなかったり、退職してしまうという。


似顔絵を描きながら、お客様と楽しく会話するスキルも必要だ

課題を見つけ、実践する力を磨く

 元より「一流」の育成に重きをおいてきた同社だが、4年前に社長に就任した菱田さんは財務とマネジメントなどの社内体制強化を断行した。その背景には、社長就任の数年前に社員が次々に辞め、人が育たなかった経験がある。

 「なぜできないの」と厳しく叱ったために社員がどんどん退職し、当時は「私がこんなに一生懸命やっているのに、なぜ分かってくれないの」と落ち込んだ。しかし、見かねた若手社員から「私の先輩を人前で叱るのはやめてほしい。会社の空気が悪くなり、社員同士がいがみ合っている」と苦言を呈されたのを機に、菱田さんは考えを改めたという。

 時を同じくして脳科学を勉強したこともあり、以来、菱田さんは自分以外の人の感情にも目を向けるようになった。今、菱田さんが実践していることの1つは、リアルタイムで褒めることだ。いい行いを褒めるだけでなく、思う通りにできていなくても「こうなってほしいという姿を言葉にして褒める」のも効果が高い。「“いつも掃除してくれてありがとう”と声をかければ、“掃除しなさい!”と言わなくても、自然とその理想に近づいていってくれます」。

 「象には象の、鳥には鳥なりにできることがある。象に“なぜ空を飛べないの?”と要求しても実現できないから、得意なことに特化するように体制を変えました」と菱田さん。それまではクラウンと似顔絵師のトップに各部門のマネジメントも任せていたが、彼らにはパフォーマーに専念してもらう体制を作った。そうした配慮が社員たちにも伝わり、技術や人間力をより磨いてパフォーマンスの質を向上させるようになった。

 また、週に1度の朝礼では、社員が持ち回りで自分へのコミットメントを発表する。「仕事の動線を見直す」「整理整頓」など社員が自ら掲げた目標であれば、積極的に達成を目指すからだ。菱田さんに相談をもちかけてきた社員にも答えは出さず、「どうすればいいと思う?」と自分で考えて言わせるように心掛けている。そうすることで、社員は自ら課題を探し、考えて答えを見つけて実践する自然な流れが生まれ、会社の雰囲気も明るく力強いものになった。


現在の朗らかな菱田さんからは想像もつかない時期があった

付加価値と安心感で価格破壊に対抗

 どの業界でも悩ましい価格破壊の波は、プレジャー企画のようなエージェントにも及んでいる。しかし「わが社は値段は高めかもしれませんが、絶対に値段は下げません」と菱田さんは断言する。「新人でいいから安くやってほしい、と言われても応じません。わが社は新人でも定価に見合ったパフォーマンスを提供できるように育てているからです」。

 技術プラスアルファの付加価値で高い顧客満足度を誇る同社は、企業ゆえの安心感、信頼感にも揺るぎはない。パフォーマンスという形のないサービスを提供するだけに、クレームには誠実に対応する。クラウンなどが体調不良のときはすぐに別のクラウンをフォローに向かわせるなど、大勢のアーティストを抱えている強みもプレジャー企画を支えている。

 そもそも菱田さんには「会社をもっと大きくしたい」という拡大志向はなく、これからも専門性を突き詰めてより質の高いパフォーマンスを提供するのが目標だ。

 「誰もが“人を喜ばせたい”、“笑顔になってほしい”という気持ちを心の底に持っているはず。わが社のクラウンや似顔絵師の力を使って、“喜びの種をまく”という皆の気持ちを引き出したいんです。それが私たちの仕事であり、そうすることで自然と喜びや笑顔の輪が世の中に広がっていくと信じています」


一度見れば納得するクオリティの高さ

アーティストたちの個性を伸ばしつつも、ビジネスとして発展を続けてきたプレジャー企画。
今後もますますスキルに磨きがかかり、誰もが笑顔になるようなパフォーマンスを見せてくれるだろう。