大学時代の同級生3人が卒業の2年後に集まって起業した面白法人カヤック(正式名称:株式会社カヤック)。半年かけて企業理念を練り、9割以上がクリエーターの会社を作ってチャット&ゲームコミュニティ「Lobi」や「ART-Meter(絵画の量り売り)」(現在は東急ハンズが運営)などユニークなインターネットサービスを次々に世に生み出してきた。設立者の1人である代表取締役CEO・柳澤大輔さんに、カヤックのユニークな取り組みや社内制度、事業計画の立て方などについて伺った。
1998年8月に貝畑政徳氏、柳澤大輔氏、久場智喜氏により設立(当時は合資会社)されたwebサービスやアプリ、広告制作などを手掛ける会社。本社は神奈川県鎌倉市にあり、現在はヨコハマ展望台オフィスも一拠点として設ける。経営理念は「つくる人を増やす」。毎月全社員がサイコロを振って給料の上乗せ分を決めたり、全社員参加の合宿や全社員が人事部所属を宣言した「ぜんいん人事部」を発信したり、ユニークな制度でも注目を集めている。2014年12月にマザーズに上場。
サイコロの出目で給与額が変わる!?
「何をするかより、誰とするか」を重視し、大学在学中の約束どおり同級生3人で起業したのが面白法人カヤックだ。企業理念を重視するカヤックでは、理念を形骸化させることはない。「起業時の経営理念は実体験に基づかないからしっくりこない部分があった。でも、毎年見直して進化させていくと、会社の実態にマッチして本当の旗印になるし、理念を突きつめるとイノベーションが起きる。企業理念は“どういう人を大事にするか”という経営者の思いや個性を顕在化したものだから、結果的に事業にも役に立つんです」(柳澤さん)。ユニークな視点を盛り込んだ組織作りや人事制度は、しばしばインターネットを中心に話題になっている。
カヤックの制度でもっとも有名なのは「サイコロ給」。設立当初から今も続くこのシステムは、社員全員が毎月給料日前にサイコロを振り、基本給×「サイコロの出目」%がサイコロ給として支給されるものだ。基本給30万円で出目が6なら、30万×6%で1万8000円が給与に上乗せされる。これは「お金よりも大事なものがある」ことを再認識し、創業当初の「友達同士で仕事をする喜び」に立ち返るためでもあり、「人が人を評価するのは難しいからサイコロを振って決まるくらいでちょうどいい」という思いから導入されたものだ。
ほかにも、半年ごとに全社員が会社について話し合う「ぜんいん社長合宿」、全社員が人事部所属となり面接権限を持つ「ぜんいん人事部」など、他社にないユニークな制度を次々に採り入れている。
実際に使われているサイコロ
事業計画にも、カヤックならではの視点
設立当初はこうした組織運営を重視して会社を動かしていたが、起業から数年経つとリーダー陣が事業戦略を学び、事業のメカニズムを理解して戦略を立てるようになった。「組織戦略と事業戦略の両輪が揃い、会社がぐっと伸びたのがこの時です」と柳澤さんは振り返る。
ただし起業時から「面白い」ことを大切にしてきただけあって、事業計画を立てるときもあれば、立てないときもある。“話題になるかどうか”という観点で、事業にGOを出すときがある」と柳澤さんは話す。話題になることで違う世界が見えてきて、違う事業にピボットして形になることもあるし、そもそも話題になることは、失敗しても面白法人としての価値には貢献できる。
仕事自体を面白がるだけでなく、組織管理、事業運営、経営のすべての歯車が「面白い」視点を踏まえながら着実に機能しているのだ。
オフィスには、東証マザーズ上場の記念品が
フラットな組織で、笑って働ける人を増やす
カヤックの採用においては、アルバイト等の短期雇用であっても、現場社員の面接を経て、代表が必ず面接を行うという。上場企業において、アルバイトの短期雇用の面接を社長が行うことは一見非効率のように見えるが、「オフィスで日々一緒に過ごす人材が文化をつくる」という考え方を守るためには必須であるという。また、社内教育についても、会社として社員に身につけてほしいスキル等を決め、キャリアステップを準備するというよりは、各自個別の強みを伸ばして欲しいというスタンスだ。そのため、キャリア面談等にて各自のキャリアを考える時間は設けているが、研修等については社員からの希望を基に個別対応しているとのこと。実際の現場では事業部やチームといった括りをベースに、プロジェクトごとに最適なクリエイターをアサインして業務を進めている。会社全体で常に多数のプロジェクトが同時進行しているという。
カヤックでは自由に、自主的に仕事に向き合う気質を育てるため、日常的に行われているブレインストーミング(brainstorming)、通称ブレストを行い、参加者がフラットな立場でアイデアを出し合っている。オフィスの一角には机が幾層にも積み上げられ、取材時にもいちばん上のちゃぶ台のようなデスクで社員数名がブレストの真っ最中だった。「もし売り上げが来月0ゼロになると分かった時も、深刻になるんじゃなくて“よし、ブレストをして代わりに何ができるか考えよう”と思える人と一緒に仕事をしたい」と柳澤さんは力をこめる。
「面白く働く、面白く生きる人を増やしたい。仕事を通して“会社ってこんなに面白くていいんだ”、“上場企業だけど株主と合宿に行ったりブレストするのもありなんだね”と示すことで、世の中に貢献していきたい」と話す柳澤さん。カヤックの生み出すサービスや商品だけでなく、カヤックの存在そのものが楽しく生きていける社会を生み、育てていくのかもしれない。
ブレストにも使われる自由スペース、通称“サル山”
起業から現在まで、「面白さ」を大切にしてきた面白法人カヤック。
次はどのような「面白いこと」を生み出すのか、期待が大きく膨らんでゆく。