3年経ってもしっとりと柔らかく、 味もチョコ、苺、オレンジ…とバラエティ豊か。 災害備蓄用とは思えないおいしい「パンの缶詰」を開発し、 製造販売しているパン・アキモト。 賞味期限が切れる1年前に回収して途上国支援に利用するという 画期的なシステム「救缶鳥プロジェクト」を構築し、 社会貢献にもひと役買っている。 世界に羽ばたくパン・アキモトだが、 2014年6月には地元・栃木県那須塩原市に 石窯パン工房「きらむぎ」をオープンさせた、その狙いは、 地域に貢献し、パンを中心とした新しい食文化を 地域に根付かせることだという。 パン・アキモトの堅実かつ壮大な将来展望について伺うべく、 製造部部長・秋元輝彦さんを訪ねた。
株式会社パン・アキモト
1947年に「秋元パン」として創業した栃木県那須塩原市のパン製造・販売会社。1995年に3年間備蓄可能な「パンの缶詰」を開発。賞味期限が切れる1年前に回収して被災地や難民支援に利用する「救缶鳥」プロジェクトを構築して注目を集める。栃木県内に工場と販売店、沖縄に工場を展開。2014年6月に那須塩原市に石窯パン工房「きらむぎ」をオープンし、地域貢献型企業としてもさまざまな取り組みを行っている。
おいしいパンを届ける
人気パン屋で修行し繁盛店の秘訣を探る
街のパン屋は1日の売り上げが30万円以上あれば「及第点」だが、パン・アキモトの従業員10人が修行に行った新潟の人気パン屋は1日の売り上げが100万円を超える日もあった。売り上げが伸びるから、どんどん新しいパンも開発できる。売れるから商品が回転して、店頭には常に焼き立てのパンが並ぶ。従業員も忙しく立ち働き、店全体が活気を帯びている――しかし、人気の秘密はそれだけではない。
「おいしいのはもちろんですが、味だけではない。店に入った瞬間からワクワクするんです。パン屋といえども、パンを買いに行くだけの場所ではダメだ。お客さんは足を踏み入れるだけでも楽しいというテーマパーク的な要素も求めていると気づきました」と秋元氏。
何十回も会議を重ねてコンセプトを練った。80台分の駐車場を作り、店の横に廃タイヤで公園を作り、車いすでも思いのままに動き回って買い物できる広さを確保し、 イートインスペースも作った。多くの人が気軽に立ち寄り、買い物以外にも楽しむことができ、 休憩したりおしゃべりできる場所も創出した。オープンからわずか1カ月半にも関わらず「きらむぎ」の店内は親子連れ、お年寄り、車いすの方などで常に大賑わいで、お客さんのキラキラした笑顔があふれている。
店内には笑顔があふれていた
地産地消&サイドメニューの充実で豊かなパン食文化を広めたい
パン屋の朝は早い。現在、工場長も兼務する秋元氏は、忙しいときは早朝どころか夜中の1時半には「きらむぎ」に出勤してパン作りを始めるという。「お客さんのワクワク感を高めるために視覚的要素も大事にしたいと考えてスペイン製の石窯を導入しましたが、普通のオーブンより温度が高いから、ちょっと気を抜くとすぐ焦げてしまうんです」と苦笑する。
秋元氏の出勤が早いのは、朝食用にパンを買うお客さんを見据えて朝7時に店をオープンするのも理由の1つだ。「この地域ではパン=菓子パン(おやつ)のイメージで、パン・ド・カンパーニュのような固いパンは売れなかった。でも、パンは種類が豊富で食べ方もいろいろある。パンの種類を増やし、イートインスペースではサイドメニューも充実させて、パンを中心にした新しい食文化を広めたい。石窯で一晩煮込んだスープなど、魅力あるメニューも増やしたいと思っています」と秋元氏の夢は広がる。
笑顔で夢を語ってくれる秋元氏
「民間版・道の駅」として多くの客を呼び込み地域に豊かな文化を根づかせるのが夢
地域密着型の店舗をめざし、 地元産の小麦を使うなど、地産地消も心がける。地元の甘納豆を練り込んだ「甘納豆パン」は平日でも200個、休日は500個も売れる看板商品だ。「救缶鳥プロジェクト」などでこれまでも社会貢献に力を入れてきたパン・アキモトの心意気は、「きらむぎ」にも息づいている。「きらむぎ」オープンと同時に始めた「食パンの耳プロジェクト」は、毎月「3」のつく日(3日、13日、23日、30日、31日)に食パンを購入すると代金の3.3%を東北復興や世界の飢餓地域に支援するというもの。
「このあたり一帯には“道の駅”がないので、今後は野菜の販売など他業種も呼び込んで“民間版・道の駅”を作りたい」。地域を巻き込み、住民を豊かな暮らしに導きたいという秋元氏の夢は未来に向けてさらに大きく広がっている。
パン・アキモトの挑戦は止まらない