パンの缶詰で社会貢献を 株式会社パン・アキモト【前編】

1995年――災害用の備蓄食料としては画期的な、柔らかくて味付けも豊富なパンの缶詰が世に送り出された。「パンの缶詰」という新発想も斬新ながら、賞味期限が切れる前に回収して途上国支援に利用するという画期的なシステム「救缶鳥プロジェクト」も考案され、テレビや新聞など多くのメディアでも取り上げられた。 世界を股にかける「パン・アキモト」の次なる挑戦は、意外にも地元・栃木県那須塩原市にオープンした石窯パン工房「きらむぎ」。地域密着型のパン屋という立ち位置も大切にしたいというパン・アキモトの製造部部長・秋元輝彦さんを訪ねた。

株式会社パン・アキモト

 

1947年に「秋元パン」として創業した栃木県那須塩原市のパン製造・販売会社。1995年に3年間備蓄可能な「パンの缶詰」を開発。賞味期限が切れる1年前に回収して飢餓に苦しむ国々への義援物資として利用する「救缶鳥」プロジェクトを構築して注目を集める。栃木県内に工場と販売店、沖縄に工場を展開。2014年6月に那須塩原市に石窯パン工房「きらむぎ」をオープンし、地域貢献型企業としてもさまざまな取り組みを行っている。


やさしい笑顔で迎えてくれる製造部長の秋元さん

被災者の声がきっかけで生まれた「パンの缶詰」

災害用の備蓄パンと言えば、昔は固くて味のない真空パックの乾パンが主流だった。そんな「災害用パン」の常識を覆したのが、パン・アキモトの「パンの缶詰」だ。きっかけは1995年の阪神淡路大震災にさかのぼる。 「父の秋元義彦社長がトラックにパンを積み込んで被災地に届けたものの、一部はカビが生えて廃棄処分になってしまった。その時の悔しい思いに加え、被災者からの“柔らかくておいしくて長持ちするパンを作ってほしい”という声も受け、備蓄用のおいしいパンの開発が始まりました」(秋元輝彦さん)

真空パック、冷凍保存…試行錯誤を繰り返し、何度も失敗を重ねた末に行きついたのが「パン生地を缶に入れて焼く」という斬新な手法だった。缶にパン生地がくっつかないように、缶に入れて焼く紙は世界中を探し歩き、念願の「備蓄できる柔らかくておいしいパン」が完成した。

「備蓄できて、しかもおいしい」――絶対的な自信を持って「パンの缶詰」を世に送り出したものの、最初は1カ月に1缶すら売れなかったこともあり、資金繰りに苦労した時期もあった。しかし、2004年の新潟県中越地震で現地に届けたパンの缶詰がテレビで取りあげられたことで注目を集め、徐々に認知度を上げ売り上げも安定していった。


パンの缶詰で世界へ

賞味期限切れ前に回収して途上国支援に使う社会貢献を開始

次にパン・アキモトが挑戦したのは「廃棄処分になるパンの缶詰をなくすこと」だった。「缶詰を購入した自治体や企業、個人のお客さんに賞味期限1年前に連絡し、希望者には新品の割引購入と古い商品の下取り回収をセットで行う“救缶鳥プロジェクト”を始めました。下取りした缶詰は発展途上国や難民に送って食べてもらい、社会貢献と商売がイコールになるような関係を作り上げています」と秋元氏は胸を張る。

栃木県那須塩原市発「パンの缶詰」は日本全国へ、そして災害や難民支援のために世界へ、さらに「スペースブレッド」としてスペースシャトルに搭載されて宇宙にも飛び出した。 次なる挑戦に向けて果てしなく夢が広がるかと思いきや、秋元氏は意外な悩みを口にした。

「確かにパンの缶詰は自信作であり、わが社を支える屋台骨。でも、わが社はあくまでもパン屋であって、缶屋ではありません」。


きらむぎにかける想いとは?

缶屋ではなく「パン屋」としても足場を固めたい

パンの缶詰が売れるのは、災害時や災害後というのも辛いところだった。災害があるとパンの缶詰が救援物資として送られるためメディアなどで注目を集め、災害備蓄用にと買い求める人も増えて売り上げが上がる。「でも、災害で辛い思いをする人がいるときに売り上げが伸び、その時だけ社会貢献するのではなく、日々のパンの販売でもっと売り上げを増やし、継続した支援のできる会社にしたい」

そこで秋元氏が考えたのは、もう一度地元・那須塩原に根差した地域のパン屋としての再出発だった。その心境を秋元氏は正直に吐露する。「わが社はパンの缶詰としては有名でも、焼き立てパンの販売店としては地域の他店に押され気味だったのです」

では、どうすれば「人気のパン屋」になれるのか。世界で、1日50万円〜70万円を売り上げるというとある人気パン屋を視察。社員を交換で派遣し、1か月ずつ修行させて「繁盛店の人気の秘訣」を掴み取ることにした。

製造部部長の秋元輝彦氏自身も1か月間、新潟のパン屋で修行を重ねた。
後編では、そこで得た「繁盛店の秘密」と、それを生かして立ち上げた新店舗の秘密に迫ります!

地域に豊かな文化を 株式会社パン・アキモト 【後編】