皆を笑顔にして、その真ん中に立ちたい 株式会社シンクスマイル【後編】

「したことない。をへらす」を経営理念に掲げ、アプリやクラウドサービスなどを手がけている会社が「シンクスマイル」だ。「自分」「家族」「仲間」「顧客」「世界」の、5つの笑顔を支えるサービスを提供している。代表取締役・新子明希氏に、起業までの道のり、そして物づくりや営業の根本的な考え方など、楽しく働くためのヒントを伺った。

株式会社シンクスマイル

 

「したことない。をへらす」という経営理念に基づき、日本初のお試しサイト「torakore(トラコレ)」の運営、リピーターファン創造ツール「Ziriri(ジリリ)」の販売など、ユニークなサービスを提供している。理念浸透・人材育成・インナーブランディングツール「HoooP(フープ)」はおよそ1000社に導入され、2017年3月からはHoooPをさらに進化させたシステム「RECOG(レコグ)」の販売を開始して注目を集めている。

 

▼シンクスマイルのホームページはこちら▼
https://5smile.com/

笑わせて緊張を解き、話を聞いてもらう

楽しく働き、新しいことに挑戦する機会を作るさまざまなアイデアで社会を活性化しているシンクスマイル。創業者・新子明希さんの原点は、高校時代のアメリカ旅行にまでさかのぼる。「高2の春休みに友達とアメリカ1周旅行に行き、ボストンのマサチューセッツ工科大学のオープンキャンパスで“経営者は幸せの専門家”という講演を聞きました。社員やお客さんを幸せにするなんていい仕事だと感じて、いつか起業しようと心に決めました」。

卒業後は1度も就職することなく、個人事業主として起業家への一歩を踏み出した。「資金はないし在庫も持てないから、教材の委託販売からのスタートでした」と新子さんは振り返る。行政書士には頼らず、自ら公証役場に行って手続きして有限会社を設立。続いて会社が立ち行かなくなったときのために「会社のつぶし方」を勉強し、すべてを背負う覚悟を決めての船出だった。

 個人事業主の先輩からは「物を売りつけられそうだと警戒している人は笑わない。でも笑わせることができれば相手に話を聞く余裕が生まれる」と教わった。そこで教材、宝飾品、防犯機器などいろいろな物の代理販売をしながら、常に「いかに楽しく物を売るか」を研究した。楽しい営業で右肩上がりに業績を上げるうちに、新子さんが行きついたのは「なんでも売れるなら、何を売るか、何のために売るかのほうが大事だ」という思いだった。


こんなところにも笑わせる工夫が

皆を笑顔にして、その真ん中に立つ仕事を

みんなが笑顔になる物を売ろうと考えて探したものの、これはと思う商材には出会えない。そこで、オリジナルの物を作って売ることを決めた。町で試供品が配られているのを見て、「そういえば、サービスの試供品ってないな」と思いついて形にしたのが、美容院やエステ、ホテルなどのサービスを試せる「Tryfeel.collection(以下、トラコレ)」だった。

商品化にあたって20人ほどの社員にアンケートを取ったところ、賛成は2人だけ。「それを見て“これはいける”と手応えを感じましたね。ほとんどの人が賛成するようなアイデアなら、すでに誰かがやっているでしょ?」と新子さんは笑う。反対の社員に理由を聞くと、「個人情報を扱うリスク」や「やったことがないから」という意見が挙がった。しかし新子さんは「これらは解決すべき課題ではあるが、諦める理由にはならない」と考え、課題を一つずつクリアしていったそうだ。そうして08年に日本初のお試しサイト「トラコレ」をリリースしたが、スタート当初の会員は17人だった。

そこでさまざまなイベントにも出展して、認知度を上げる地道な努力を重ねた。たとえば大阪で70万人を動員する食の一大イベントでは、ビールや牛丼などメーカーやチェーン店の中で異色の「笑顔のフォトコンテスト」ブースを出展。大掛かりなしかけの大企業を横目に見ながら、マイクパフォーマンスで衆目を集めた。「牛丼やぎょうざを食べながらの笑顔でもいいですよー」「座って笑うだけで、入賞すればハワイや沖縄に行けちゃいます!」といった呼び込みが功を奏し、11日間で集まった笑顔の写真はなんと2550枚にも上ったという。

「スタッフ全員GW返上だったにも関わらず、皆すごくいい顔していたんです。ふと見たら、フォトコンテストの写真がブース一面を埋め尽くしていて、メンバーが満開の笑顔の中に立っていた。“そうか、人は笑顔の真ん中にいたら疲れないんだ。皆を笑顔にして、その真ん中に立とうぜ!”と思って、それが“5つの笑顔”という会社名につながりました」と新子さん。笑顔の輪を広げるすてきな話を満面の笑顔で語る新子さんからは、その熱意と温かさが伝わってくる。


新子さんからも笑顔があふれる

NOと言わず「ちょうどよかった」で返す

どんな局面も軽々と乗り越えているように見える新子さん。そもそも営業の考え方の基本を体得したのは高校時代のアメリカでの壮絶な体験だった。「サンフランシスコでエレベーターに乗り合わせた男性にナイフを突きつけられて“失職して何も食べていない。お前を殺してお金を奪う”と脅されたんです。そのとき、とっさに口を突いて出たのは“ちょうどよかった!”というセリフ。“今から朝食を食べようと思っていたから一緒に食べよう”と。そうしたら相手もナイフを捨て、朝食をおごってあげて事なきを得ました」。

何とも恐ろしい体験だが、そのとき新子さんが学んだことは、まず相手の状況を受け入れることだった。「だから、何を言われても絶対にNOと言わず“ちょうどよかった”で返すのが僕の営業スタイル。たとえばトラコレの営業で“うち、広告やってないんで”と断られたら、“ちょうどよかった。これ、広告じゃなくてモニタリングのサービスなんです”と切り返します」。

新子さんが会社を立ち上げる時に決めて、以来ずっと守っていることがある。「月曜日の出勤のときに足が重くなるような会社だけは作りたくない。毎日ベストフレンドに会いに行く感覚で行けるような楽しい会社にしたいんです」。


会社作りの思いは、パンフレットのコピーからも伝わる

新子さんとシンクスマイルは今日も社会に笑顔を運ぶサービスを創り出し、人々に届け続けている。