guest
安藤 俊介●あんどう しゅんすけ
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事
アンガーマネジメントコンサルタント
ニューヨーク駐在時代に怒りの感情と上手につき合うための心理トレーニング「アンガ―マネジメント」と出合い、その手法を実践。日本人としてはじめてのナショナルアンガーマネジメント協会、アンダーソン&アンダーソン、MFTNY公認のアンガーマネジメントファシリテーターとなる。現在は怒りの問題を解決する専門家として感情理解教育「アンガーマネジメント」の理論、技術をアメリカから導入し、教育現場や企業などで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。アンガーマネジメントのトレーナーの育成にも力を入れている。『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『「怒りに負ける人、怒りを生かす人』(朝日新聞出版)など著書多数。
interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。
子どものころから怒られることに慣れておく
森:我が社には毎年新入社員が入ってきますが、昔と比べて幼く、頼りないと感じる若者も増えています。そういった社員に対してもアンガ―マネジメントを教えることは有効ですか?
安藤:日本はこの20年ほど、「褒めて伸ばす」教育や子育てが中心でした。ですから怒られ慣れていない若者が増えています。
でも、社会に出たら絶対に怒られますよね。怒られて心が折れてしまうのは、無菌室で育った子が大人になった瞬間に外に出されて風邪をひくようなイメージです。
子どもの頃から小さな風邪をひいて慣れておいたほうが子どものためです。そのためにもできれば小さい頃から怒り方や怒りのコントロール法を学んで訓練してほしいですね。社員を怒ると「うちの子が何をしたんですか」って親から電話がかかってくる会社もあると聞きますからね(苦笑)。大学受験や就活など何かの試験にパスする能力には長けていますが、一方で社会の中に入ってコミュニケーションをとる力が欠落している部分がありますね。
森:例えばアメリカですと色々な人種がいて価値観の差も大きいと思いますが、日本人同士はあ・うんの呼吸と言われるようなものができあがっていて、アバウトでも結構うまくいく感じがしますが。
安藤:以前はそれで良かったんですが、やはりこの20〜30年の間に社会が欧米化してきて、働き方の多様化も進みました。働き方に正解がなくなり、ダイバーシティ、ワークライフバランスが広まりつつあります。社会としてはいいことですが、それを許容できなくてイライラする人が増えているのは事実でしょう。近年よく耳にする、「パワハラ」も怒りと密接に関係していますよ。
我々がとったデータでは、怒った側が「パワハラかな」と感じている割合は約16%ですが、怒られた側が「パワハラだ」と感じている割合は約54%にものぼります。怒っている側と怒られている側で意識が全く違うんですね。また、同じ調査によると、怒っている側は気持ちを数分で切り替えられる人が6割ですが、怒られた側の約1/4はそれを1年くらい引きずるそうです。
怒り方を間違えてしまうと尾を引くから、ぜひアンガ―マネジメントの手法を身につけておいてほしいですね。
日ごろから人のパターンを観察しておく
森:怒られるとへこんでしまう若者も増えていますが、逆にいくら怒ってもまったく響かない人もいますよね。その場合はどうしたらこちらの気持ちが伝わりますか?
安藤:怒られる理由を理解できていないのでしょう。怒る側が「ここから先は許せない」という境界線を動かして、なにかにつけて怒ったり、機嫌に任せて怒ったりすると、そうなります。解決策は、怒る側が「許せない」と思う境界線をきちんと決めて、いつでもどこでも誰に対しても同じ境界線で怒るように気を付けることですね。
それを繰り返すと、「これをやると怒られるな」「ここから先はやってはいけないラインだな」と理解されると思います。怒られればもちろん、いい気持はしないでしょうが、伝わっていないのであれば、「何で怒っているんだろう。だってこの前は同じことをしても怒らなかったじゃん」という感じでしょうか。あとは「どうせ機嫌悪いんだな」とスルーしたり。我々の側から見ると、みんなが気を遣わずに自由に怒り過ぎていたしわ寄せがきている印象ですね。
森:逆に怒られる立場になってみると、理不尽な怒り方をする上司や顧客もいるように思います。そんなときの上手な交わし方はありますか?
安藤:相手の信頼を勝ち取りたい場合、「ミラーリング」といって相手と同じ速さ、声の高さなどで話す手法を使います。
そうすると相手が親近感を抱いてくれるからです。理不尽な怒りを交わす場合は、その逆の行動をとるやり方があります。
たとえば大声でまくしたて怒る人なら、わざとゆっくり小声で対応する。逆にぼそぼそ、ねちねちと怒る相手なら、大きな声でハキハキと返事をしてみる。そうすると相手のペースが狂って喋りにくくなり、トーンダウンするはずです。
人って必ずパターンがあるから、日ごろから観察しておくことが大切です。いつも怒られたりダメ出しされる人は、相手の機嫌が悪いときに何か持っていってしまう。間が悪いんですね。
森:こうしてお話を聞いてみると、怒りのコントロールの訓練はとても重要だということがよく分かり、勉強になりました。
今年公開された映画『アングリーバード』ともコラボするなどアンガ―マネジメントの認知度はこれから上がっていくと思いますが、今後はどんな展開を考えていますか?
安藤:怒りというのは連鎖するもので、例えば会社で怒りを感じると家庭に持ち帰って妻や夫、親が子どもにあたってしまう。
怒りをぶつけられた子どもは学校に行って弱い子をいじめ、いじめられた子は家庭に持ち帰って親にあたるかもしれない。
怒りの感情は矛先が固定できないから、1度感じるとずっとはけ口を探して誰かにぶつけてしまうんです。
そうすると社会で怒りの連鎖が止まらなくなりますね。ですから私たちの協会は、アンガ-マネジメントという考え方が当たり前の社会にするのが目標です。自分で責任を持って自分の感情を選べるようになって、人が人にあたらない穏やかな社会を実現したいですね。