guest
安藤 俊介●あんどう しゅんすけ
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事
アンガーマネジメントコンサルタント
ニューヨーク駐在時代に怒りの感情と上手につき合うための心理トレーニング「アンガ―マネジメント」と出合い、その手法を実践。日本人としてはじめてのナショナルアンガーマネジメント協会、アンダーソン&アンダーソン、MFTNY公認のアンガーマネジメントファシリテーターとなる。現在は怒りの問題を解決する専門家として感情理解教育「アンガーマネジメント」の理論、技術をアメリカから導入し、教育現場や企業などで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。アンガーマネジメントのトレーナーの育成にも力を入れている。『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『「怒りに負ける人、怒りを生かす人』(朝日新聞出版)など著書多数。
interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。
怒りの感情で後悔しなくなるための技術
森:アンガ-マネジメントという言葉は、今回初めて耳にしました。そもそも怒りの感情は誰にでもあるものですよね。アンガーマネジメントとは、怒りが爆発しちゃうととんでもないことになる可能性があるから、怒りを自分でコントロールしていく手法を学ぼうということですか?
安藤:アンガ-マネジメントは1970年代にアメリカで生まれたとされている、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングです。当初は軽犯罪を犯した人などの矯正プログラムという側面が強かったのですが、時代とともに一般化され、今では企業研修や学校教育現場、アスリートのメンタルトレーニングなど様々な分野で活用されてます。
よく「怒らなくなる方法ですか」と聞かれますが、決してそんなことはありません。アンガ―マネジメントを学ぶことで怒る必要のあることは上手に怒り、怒る必要がないことは怒らなくて済むようになる、つまり怒るべきかどうかの線引きができるようになります。我々は怒っても後悔することがあるし、怒らなくても後悔することがありますよね。でも、アンガーマネジメントを学ぶことで怒りという感情で後悔しなくなるようにしよう、という考え方なんです。
森:なるほど。「あんな怒り方をしなければよかった」「あの時、はっきり怒っておけばよかった」といった後悔と無縁になるわけですね。そもそも、このアンガ―マネジメントに安藤さんが注目したのは何がきっかけですか?
安藤:私自身が怒りっぽかったので、以前からなんとかしたいという気持ちがありました。
そんな折、2003年にアメリカに駐在した時に知人からアンガ-マネジメントの存在を教えてもらいました。ちょうどその年に「アンガ-マネジメント」という映画が公開されたこともあり、なんとなく言葉は目にしていました。そこで友人の紹介でアンガ―マネジメントの講座を受けてみて「これならできるかな」と思って。そこからはまっていきました。
怒ること自体は悪いことではないけれど、怒りにくい方がいいのは確かです。毎日の生活の中で、爆発するような怒りでなくとも、ふつふつと湧き上がる怒りを感じることはありませんか?怒りにくくなるための考え方のコツがあるので、ぜひ知っておいてほしいですね。私たちが怒りを感じるのは何に対してだと思いますか?
森:相手の言動でしょうか。でも、同じ言葉でも発した相手によって怒りを感じないこともあるから、相手に対して怒りを感じるのかな…。
安藤:私たちは、自分が信じている「○○すべき」ということが目の前で裏切られたときに怒りを感じるんです。
例えば「マナーを守るべき」と思っているのに、目の前でマナー違反をされると頭にきますよね?
問題なのは「○○すべき」が一致していても、人によって許せる範囲が違うからです。自分の心の中に三重丸があるとして、一番中心の青い部分は自分が信じている「べき」で、その回りにある黄色い部分が「自分とはちょっと違うけどまあ許せる」という範囲。一番外側の赤の部分は許せない状況で、この部分に抵触すると怒りを感じます。
多くの人は黄色の部分が少なくて、青か赤になっているんです。だからイラっとすることがあっても、黄色の部分を大きくしていけば怒りにくくなります。
互いに優先事項を見せ合うことでイライラを解消
安藤:例えば「10時集合」と言われたら、何時何分に来るべきだと思いますか?
森:最低5分前には来るべきだと思うから、9時55分ですね。
安藤:誰もが「時間を守るべき」と思っているはずですが、Aさんは集合の10分前に来るべきだと思っていて、Bさんは10時ちょうどでOKと思っていて、さらにCさんは10時5分でもいいと思っている。
「5分くらい、別にいいじゃない」というわけです。お互いに「時間を守るべき」と言っていても、AさんとCさんが待ち合わせをしたら、Aさんが15分待つことになりますよね。お互いに「時間を守っている」から、遅れてきたほうもなぜ相手が怒っているのか分からない。ぎくしゃくする原因になりますね。
価値観を共有するために、「自分は10分前には来るべきだと思っている」とはっきり伝えておくといいんです。
もう1つ、赤と黄色の境界線は機嫌で左右されがちなので、自分で境界線をきちんと決めて動かさないことも大事です。10時に来ても怒らない日もあれば5分前に来ても遅いと怒る上司がいたら、部下は困惑します。機嫌がいいときは何でも許せるのに、機嫌が悪くなると普段許せることが許せなくなってしまう――これでは怒られる側もどうすればいいか分からなくなります。
仕事の場だと、同じことをしても上司によって境界線が違う可能性もあって、それも部下には困りものです。だから、何が許せて何が許せないのか、何が優先で何が優先ではないのかをお互いに見せ合って知っておくといいでしょう。会社ではみんなが守りたい「○○すべき」という課題がいっぱいありますよね。例えば「月曜日の朝9時の営業会議は全員参加すべき」「お客様を最優先すべき」という部署があって、月曜日の朝9時に客先から呼ばれた場合、どうするべきだと思いますか?
森:会議は欠席してでも客先に行くほうがいいでしょう。
安藤:それも1つの考えですが、部下が客先に行ったら「それでよし」と言う上司もいれば、「それぐらいリスケしろよ」と怒る上司もいるかもしれません。「え、だってお客さん最優先って言ったじゃないですか」と反論したところで、「いや、営業会議のほうが大事だ」と言われるかもしれない。
会社や組織ではこういうことがしょっちゅう起きているのでしょう。フロリダ州立大学のある研究によると、上下関係が上手くいっていない組織は、上手くいっている組織に比べて生産性が3分の1になるというデータが出ています。上下関係が上手くいっていない組織の場合、部下が意図的にさぼったり全力を出さなかったり休みを多くとるといったサボタージュ(反逆)行動をするからです。
森:3分の1にまで生産性が下がるとしたら大問題ですね!組織全体で価値観を共有し、皆が許せる範囲を広げるように意識することで、経営も安定するし、会社の雰囲気もよくなりそうです。では次回からは上手な怒り方や、怒りを感じた時の具体的な対処法についてお聞きしていきます。