人間性重視の採用でチームパフォーマンスを実現 プレジャー企画代表取締役会長 大棟耕介氏に訊く【後編】

guest
大棟 耕介●おおむね こうすけ
有限会社プレジャー企画代表取締役会長
NPO法人日本ホスピタル・クラウン協会理事長
1969年生まれ。筑波大学卒業後、鉄道会社を経てクラウン(道化師)のプロになりプレジャー企画を起業。抜群の運動神経で、その場のものを額に乗せるバランス芸などのパフォーマンスが人気。現在プレジャー企画は日本最大級のクラウンチームと似顔絵師という珍しい組み合わせの社員で構成されている。病院を訪問するホスピタル・クラウンの活動も行っており、著書『ホスピタルクラウン』は2008年にテレビドラマ化(フジTV)された。2008年WCA(world Clown Association)コンベンション グループ部門金メダル受賞。

 

有限会社プレジャー企画
NPO法人 日本ホスピタル・クラウン協会

 

interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

社員にとってプラスとなる投資は惜しまない

森:プレジャー企画は日本で一番大きなクラウン集団だと聞きましたが、何人くらい所属しているんですか?

大棟:プロのクラウンと名乗れる人は日本で50人程度だと思いますが、わが社には専業クラウンが20人以上います。つまり日本のプロクラウン市場の半分くらいを占めている状況です。同業他社はフリーのクラウンをHPに載せて依頼があれば手配するところが多いですが、わが社は未経験者も採用して養成し、全員が専属パフォーマーです。

「新人でいいから安い子を寄こして」って言われることもありますが、そうした要望には対応していません。24時間365日練習できるスタジオを整えて、きちんと一人前に育てたうえで外に出しているので、価格を上げるために技術を上げたりステータスをつける投資もしています。

毎年、クラウンには世界大会に挑戦させていて、今年も300人ほどの参加者の中で3人が入賞しました。モンゴルサーカスに行かせたこともあります。また、わが社は似顔絵師チームも抱えていますが、新人が「似顔絵を描きます」と言っても売れないですよね。そこで、まだ会社が小さくてお金がない時期に10人近くをフランスのモンマルトルの丘に行かせました。

似顔絵の聖地と言われるモンマルトルの丘は年間契約でブースを買って似顔絵を描くので、本当は普通の人は商売できません。でも「あの丘で誰かの似顔絵を描いてこい」と言ってフランスに送り出しました。そうしたらプロフィールに「モンマルトルの丘で似顔絵を描いた経験あり」と書けるから、箔がつくでしょ(笑)?そういう投資は惜しみなくしてきたつもりです。

森:素晴らしい発想力と行動力ですね!技術とステータスを磨くほか、人間性などの教育にも力を入れていますね。

大棟:日本のクラウン市場でプロとしてやっていくためには、技術面では学生時代の体育が「2」でも問題ありません。
むしろ、人間性のほうが大事です。素直な子が伸びるので、現状を分析して自分に足りないところを補う、いいところを伸ばすという姿勢がなければ成長しないので、彼らが練習スタジオで何時間、どんなトレーニングをしているのかを見て、技術と伸びしろを考えながらスケジュールを組みます。

まじめな子がチャンスを与えられるということをクラウンチームのみんなは気付いていますしね。トレーニング自体を楽しみたい、我々のファンで一緒にやりたい、サーカスで食っていきたい、病院で活動したいなど目的はさまざまですが、鹿児島の高校を卒業して単身で来る子もいれば、国立大学や難関大学の大学院卒の子もいて、年間で30〜40人くらいが入ってきます。その中で残る子は5〜6人ですね。

量をこなすことで質が上がる

森:ステータスを上げる、ブランド価値を高めるためにはどんな工夫をされていますか?

大棟:うちの会社は5人組のステージを同時に3つ組めますが、他の会社ではそうはいきません。コンビネーションを組むクラウンが、そもそもいないんです。人数が多く見える会社でもフリーのクラウンが登録しているだけ、というのは社会性や協調性に乏しくて団体生活が苦手な人が多いから。

うちはコンビネーションを組むことも多くて協調性を大事にしているので、ルールを守れない子が辞めていきます。いくら上手くても勘が良くてすぐ商品になる子でも、うちの組織のカラーに合わない子はご遠慮いただいているんです。クラウンに向いている人をひと言で言うなら、公務員みたいな人ですね。ホームランか三振かではなく、確実な内野安打を打つ人が欲しいんです。たとえば写真事務所で言うなら、風景・人物・商品など得意分野の違うカメラマンの集団なら、風景の仕事が重なったときに人物が得意な人がサポートに回れます。組織だから初めてうまく仕事が回る、組織の強みってそういうことですよね。

うちには色々な人がいますが、ルールを守れて人を気遣える人間が集まっているから、仕事が重なってもお互いにフォローし合うことで仕事をうまく回せます。「クラウンを愛している」「技術を持っている」ということよりまずは人物が大事だから、最近は入り口の段階で厳しく見ています。

森:採用の段階でそういう人を見分ける方法はありますか?

大棟:性格判断テストもやっていますが、やはり面接重視ですね。誰でも僕にはいい顔するし、僕の前ではみんな素直に受け答えしますが、中には他のスタッフに横柄な態度を取る人もいます。だから会社に入ってくるところ、休憩中の態度や会話なども大切な判断材料。「あの人とは隣で仕事したくない」「ウマが合わない」といったスタッフの意見を重視していて、僕の意見が通らない時もあります。

グループで動く仕事なので、お見合いと同じように好き嫌いという直観や相性が大事ですから。
新入社員が入って、育てていく上では、誰もが頑張ってるし、僕もいっぱいいっぱいになりながら動いているので、その背中を見せているつもりです。みんな真剣だし誰もうまくサボったりしないので、そういう社風は伝わっていると思います。意図的に教育ということで意識しているのは、最初に量を与えることですね。たとえば芸人なら現場の数だし、デスクワークの子でも同じで、量をこなす中で対応の仕方を体得したり質が生まれると思います。許される範囲の理不尽さを若い時に味わっておくことは大事ですね。

森:昔は2、3日の徹夜は当たり前でしたが、今はそれをやらせるのが難しくなりましたね。

大棟:僕らは部活で理不尽さを乗り越えてきたから、会社の理不尽さなんて余裕でこなせますよね。

その経験がない子は社会に出てすぐ大変な仕事を経験しておかないと、中堅になって大きな仕事が重なるときついですから。あとは新人のパフォーマー達もたくさん本番に出しています。そうすることでエンドユーザーが何を望んでいるかというか着地点が分かってきて、練習がしやすくなります。現在はクラウンと似顔絵の2つを極めているので、クラウンが上場企業でクラウンコミュニケーションの実技を披露する研修も好評だし、似顔絵から派生してぬいぐるみとかテレビのフリップボード、または壁画のようなアーティスティックな仕事も増えています。

人を喜ばせるきっかけ作りという視点でできることは沢山あると思いますが、業種を絞ることで可能性が広がっていくと感じているので、これからも様々なチャンスを利用して事業を展開していきたいと思っています。