伝え方を磨けば経済の活性化につながる コピーライター佐々木圭一氏に訊く【後編】

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佐々木 圭一●ささき けいいち
1972年東京生まれ。父の転勤で転校することが多かったこともあり、コミュニケーションが下手で文章を書くのも苦手だった。上智大学大学院卒業後、コミュニケーション技術を高めたいと思って博報堂に入社し、コピーライターに。いいキャッチコピーが作れずストレスで激太りするも、伝え方に法則があることを発見。感動的な言葉を生み出せるようになり、劇的に人生が変わった。伝説のクリエーター、米国のリー・クロウのもとで仕事に従事し、カンヌ国際クリエイティブアワードのゴールド賞、One Show Designで日本人初のゴールド賞など、合計55以上のアワードを獲得。 郷ひろみ・Chemistryの作詞家としてアルバム・オリコン1位を2度獲得。 博報堂を退職後、2014年に株式会社ウゴカスを設立。著書『伝え方が9割』『伝え方が9割②』(ダイヤモンド社)は合計79万部を突破している。

 

interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

相手のことを考えたコミュニケーションを

森:前回は、実際のビジネスシーンで使える具体的な「伝え方」を教えていただき、たいへん参考になりました!今回は客先での会話や、伝え方の磨き方について伺います。まずは初対面のクライアントと適度な距離で仲良くなる方法が知りたいです。

佐々木:僕は講演の最初に、2人1組になって「相手が褒めてほしいところを褒めてください」というワークをやってもらいます。

「ネクタイすてきですね」みたいなパッと目につく褒めやすいところではなく、「相手が褒めてほしいところ」を想像して褒めるのがポイント。そうすると会場が温まっていい雰囲気になり、その後のワークがうまくいきます。
ですから相手と仲良くなりたいなら、相手が言ってほしいことを想像して言葉にするといいですよ。

森:相手が言ってほしいことはどうすれば分かりますか?私は、この人の懐にどこまで入っていいのか、ここまでつっこんだ話をしていいのかな、と迷ってしまう時があるんです。

佐々木:まずはいろいろ話題を振って、聞くことからですね。そして、相手が何を考えてるかな? と考えながら話を進めるといい。自分が「これとこれを言いたい」「上司に言われたから商談に持ち込むためにこれとこれを話そう」では、言いたいことを録音テープで流したのと同じですから。

森:雑談の中から「この人は、こういうことに興味を持っている。こういうことを言われたら嬉しいだろうな」と見抜く力が必要ですね。ただ、相手のことを考えて言い方を変えると、下手(したて)に出ているような気がして「ここまでしなくちゃいけないのか」と思うこともあります。

佐々木:20〜30年前と比べたら下手に出ていると感じるかもしれませんが、相手のことを考えたコミュニケーションができるようになったとも言えます。

なでしこジャパンの佐々木監督は「横から目線」という言い方をしています。選手に「のりちゃん」「のりお」と呼ばせていて、従来の「絶対的権力の監督vs絶対服従の選手」というイメージからはほど遠い、ほぼ対等な関係が生まれています。ビジネスの場も同じとまでは言いませんが、上の人が絶対的存在で「俺の言うとおりにそのままやれ」というやり方はなじまなくなってきた。

もう少し距離の近いコミュニケーションが求められる時代になってきたと思います。

森:では、敢えて自分から近づいていく姿勢も必要ですね。佐々木さん自身が社内で気を付けているポイントを教えてください。

佐々木:社員にいつも言っているのは、お客さんからの依頼を断る場合でも、「印象が良かったな」と思ってもらえるように、メール1つでも大切にするように、ということです。また、僕が社員に意識して使っているのは、「君だからこそ頼みたい」「君はこれが得意だから任せる」など、「あなた限定」と感じさせる言い回しです。

森:「あなた限定」や「認められたい欲」などご著書に書かれている技術を 1つずつ使ってみるといいですよね。
でも、会話の中ですぐにいい言葉が出てくるか…ちょっと自信がありません。

佐々木:最初はメールやSNSを使って練習するといいですよ。自著『伝え方が9割②』の中で紹介している「“強いコトバ”を作る8つの技術」「“イエス”に変える7つの切り口」を真似して、たとえば「認められたい欲」とか「選択の自由をもりこんでみよう」と考えながら書いてみてください。

ずっと考えられるし何度でも書き直せるから、いい練習になります。上司に対してでも、部下に対してでも、子供に対してでもいいから、同じ技術を1日3回使ってみてください。料理と同じで3回やれば、自分のものになります。

森:この本には名刺サイズの付録がついていますね。これをカンニングペーパーのように持ち歩いていれば、伝え方で迷った時にサッと取り出して見られますね。

佐々木:この付録カードは、僕自身の体験から生まれたものなんです。僕はビジネス本が大好きで書いてあることを実践したいと思っているのに、重いから持ち歩けなくて、結局使えないまま忘れてしまう。だから、いつでも使ってもらうにはどうしたらいいかな? といろいろ考えて、切り取り式の付録をつけたから、ぜひ活用してほしいです。

森:細かいところまで配慮して作られているんですね。佐々木さんの本を読んだり講演を聞いたりした方は、伝え方が上達することでさまざまなメリットがありそうです。

佐々木:講演の参加者からは、「デートできるようになった」と言われること多いです。

でも、男性より、女性からです。「男性をデートに誘えるようになりました」って。やはり男子は草食系が多いのかもしれません(笑)

日本人全体のコミュニケーション能力をベースアップしたい

森:これまではずっと「伝え方」をテーマにしていますが、今後はさらに活動の幅を広げていかれますか?

佐々木:日本人全体のコミュニケーション能力をベースアップするのが目標です。
日本人は物作りの分野でもサービスプロダクトの分野でもいいものを世に送り出しているのに、あまり世界では売れていません。

一方、アメリカ人は伝える能力が高いから、同じレベルの物を作ってもたくさん売れます。日本人はいいものを作っているのに伝えられていない、そのギャップが大きいから、日本人の「伝える能力」を底上げすれば、日本経済の活性化にもつながるでしょう。

森:日本語は表現が豊かですが、うまく伝えられていないからもったいないですよね。では、企業研修などにももっと力を入れて、伝え方を広めていかれるわけですね。わが社の新入社員研修なども、お願いすることはできますか?

佐々木:もちろんです。ただ、新人だけでなく、現場のリーダーなど、昇進のタイミングでも研修をやりたいですね。
そして、さらにもう一歩進んで、学校教育の中にも「伝え方」を入れたい。伝え方を知れば人生が変わります。日本人全体のコミュニケーション能力を底上げするには、義務教育にも入って子どもたちにも教えたいですね。

森:年齢が上がれば上がるほど下とのギャップを激しく感じるので、どの年代にもニーズがありそうです。今までは「才能」だと思われていた部分ですが、技術だとしたら誰でも学べるし、学べば変わりますよね。でも、伝える技術は小学生でも身に着けられるんですか?

佐々木:これまでのセミナーの最年少は小学3年生でした。ただ、女の子は理解しますが、男の子は全然分かっていなかった(笑)。だから、義務教育に入るなら中学生ですね。卓球をまったく知らない人がプロに1時間教われば球筋がずいぶん変わるでしょう。

伝え方も同じように、少し学べばそれだけで一気に力が伸ばせます。日本人は今まで、そんな教育を受けたことがないから、教育を受ければ飛躍的にコミュニケーション能力が上がるはず。日本人ゆえの「物作り能力と表現方法のギャップ」を埋めるために、僕はこれからも幅広い年代に向けて「伝え方」を広めていくつもりです。