活躍できるフィールドをいかにつくるか ベアーズ専務取締役 高橋ゆき氏に訊く【後編】

guest
髙橋 ゆき●たかはし ゆき
香港在住時に体験したメイドに利便性を感じ、 「女性の“愛する心”を応援します」をコンセプトに1999年、 家事代行サービス、育児サービスの株式会社ベアーズを夫が起業。 妻として、専務取締役として創業期を支え、 以後日本における家事代行サービスのパイオニアとして人財育成も担当。
また、キッズからシニアまで暮らしの向上を研究し、 家事研究家、日本の暮らし方研究家としてテレビや雑誌、 講演会などでも活躍。1男1女の母。 著書『可愛くなる家事』(サンマーク出版)が好評発売中。

 

interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

ふだんから愛情や感動に敏感になるトレーニングを

森:前回までは日本初の「家事代行サービス業」の立ち上げや、女性の活用について伺いました。
今回はやりがいや生きがいにもつながる、社内外の「環境作り」について伺っていきます。
御社でメイドサービスを行うベアーズレディは主婦の方が多いのですか?

髙橋:そうです。OLを経て結婚や出産後に退職するなど、「女性の仕事は家事と子育て」という生き方をしてきた方が多いですね。でも、時代の流れで一度は家庭に入っても、誰かの役に立ちたい、社会との接点を持っていたいと思っている人はたくさんいます。そういう女性が活躍できるフィールドを作る、つまり日本の新しい雇用の創造もベアーズの目標の1つです。

森:無償で行っている家事を労働に置き換えたら、すごい金額になると聞いたことがあります。

髙橋:家の中の家事を貨幣価値に換算すると、1年間で145.7兆円(*1)に上るんですよ。
それだけの優秀な労働力が家庭の外に出たらどうなるんだろう? と考えると、主婦の方が「私は何の資格も能力もない」なんて言っている場合じゃないですよね。

森:男性陣は、もっと奥さんに感謝しないといけないですね。我が家は大学生から小学生まで男の子が4人います。妻は4人目ができるまでは保育士として働いていたので、私が朝7時半に子どもを自転車の前後に乗せ、保育園に送ってから出社していました。

髙橋:男の子4人ですか!米びつと洗濯機がどれだけ回転するんでしょう(笑)。森社長、実はイクメン(育児に協力的な男性)なんですね。

森:いえいえ、朝だけですから(笑)。でも、昔は3代で暮らしていて、ご両親が働いている間、子どもはおじいちゃん、おばあちゃんが見てくれる家庭が多かったけれど、核家族になった今はそれが難しくなりました。ベアーズのサービスはそうしたつながりを作る意味合いもあるわけですね。

髙橋:ベアーズレディは家族の中で、いわば斜めの関係。親でも先生でも友達でもないけれど、いつも決まった曜日・時間におふくろのような温かさを運んでくれるおばさんがいる、というイメージです。子どもは第三者と接することでコミュニケーションスキルが高まるし、「困った時は助けてもらっていいんだ」と体感できる。

そして、助けを求められた側もやりがいと生きがいを感じられます。

森:そうやって社会や家庭がうまく回ると、人口も増えそうですね。社員のやりがいや生きがいを高めるために、社内制度などでもさまざまな工夫をされていると聞いています。

髙橋:毎日朝礼で、社員同士で小さな感謝を述べあい、感謝された人にリボンを贈る「リボン賞」を設けています。
「残業時に温かい飲み物と差し入れをしてもらって生き返った」といった小さな感謝を発表し、指名された人にリボンを贈ります。月末に集計し、リボンをもらった社員が多い部署にトロフィーを授与します。また、誕生日の前後2週間以内に取得できる「バースデー休暇」制度もあります。命を授けてくれた両親にお礼を言いに行き、無理なら仕事を休んで笑顔で過ごし、それを手紙にしたためたり電話でいつもより長く話すようにと言っています。

森:ベアーズの仕事は愛情や感動がベースだから、親切に敏感になり、感謝の心を育てるトレーニングにもなりますね。

*1 内閣府「社会生活基本調査」平成23年版のデータを用いた「無償労働の貨幣評価額の推計額」より抜粋/RC-S法(代替費用法スペシャリストアプローチ)を用いた金額

数値目標だけでなく夢を持ち命を輝かせる働き方を応援する

髙橋:社員のモチベーションを上げる制度も創設しています。

「目標管理制度」では、たとえば伝票の入力枚数などでもよいので、全社員に数値目標を決めさせています。目標達成は評価の指標の1つですが、それだけだと数値目標ばかり追いかける社員が出てきます。そこで、「恋人と結婚して子どもを持ちたい」「3年後に横浜のあざみ野に家を買いたい」など、5年後くらいまでのライフプランも同時に立てさせています。社長が「ベアーズは人の暮らしをサポートする企業なんだから、数値を追い求めるだけではなく人間らしい暮らしをして夢を持たないといけない」と声をかけてくれて、今ではだいぶ定着してきました。

森:社員への愛情を感じるエピソードですね。実はいろいろな人から髙橋さんの話を聞いていたのですが、悪い評判は1つもありませんでした。今日、お目にかかってその理由を目の当たりにした気がします。常に笑顔で、120%の力で全力投球できる秘訣はどこにあるのでしょう?

髙橋:すべての人に平等に与えられている365日24時間という時間の正体は、命なんですよ。

今日のこの対談の60分は、私が命を捧げ、森社長の命をいただき、立ち会っているスタッフの方たちの命もいただいているんです。このチームの命で素晴らしいものを作り上げたいと考えると、長期も中期もなくて、「この瞬間を大事にする」というのが私の生き方です。

森:なるほど、時間=命と考えると、「今を『切に生きる』ことの大切さ」がしっくりきますね。
そうやって命を輝かせる生き方、働き方をすれば自分も周りの人も幸せになれるし、日本全体が明るく、大きく成長していけそうです。今日はありがとうございました。