新しい案件にも臆せず挑戦する ベアーズ専務取締役 高橋ゆき氏に訊く【前編】

guest
髙橋 ゆき●たかはし ゆき
香港在住時に体験したメイドに利便性を感じ、 「女性の“愛する心”を応援します」をコンセプトに1999年、 家事代行サービス、育児サービスの株式会社ベアーズを夫が起業。 妻として、専務取締役として創業期を支え、 以後日本における家事代行サービスのパイオニアとして人財育成も担当。
また、キッズからシニアまで暮らしの向上を研究し、 家事研究家、日本の暮らし方研究家としてテレビや雑誌、 講演会などでも活躍。1男1女の母。 著書『可愛くなる家事』(サンマーク出版)が好評発売中。

 

interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

家事代行は心豊かに暮らす知恵

森:ベアーズは家事代行サービスを行う会社ですが、どんな仕事を請け負っているのでしょうか?

髙橋:ベアーズレディという当社のプロのメイドがお客様のご自宅に伺って、さまざまな家事を代行しています。

掃除や片付けだけでなく、たとえば布団干し、靴磨き、ゴミ出し、お子さんの送迎、1週間分の料理(作り置きして冷蔵・冷凍保存)、ホームパーティの飾りつけなど、お客様のライフスタイルや事情に合わせて、さまざまなご要望にお応えしています。

森:それは便利で、嬉しいサービスですね!幅広いサービスを請け負う家事代行の会社を立ち上げたきっかけを教えてください。

髙橋:19年前、ご縁のあった香港の現地法人に採用されて香港で共働きしていたとき、私が1人目の子どもを妊娠しました。
仕事と育児の両立に不安を感じていてなかなか妊娠したことを打ち明けられずにいたのですが、ある日香港人の社長に打ち明けたところ、「フィリピンから出稼ぎに来ているメイドを雇えばいい」と助言していただいて。

そこで初めて、香港の生活サイクルの中にメイドの存在が根付いていることを知り、私も5歳年上のスーザンというメイドと出会って、たくさん助けてもらいました。スーザンのおかげで、髙橋家は夫婦仲も円満で、私は毎日身なりを整えて会社に行けて、子どもにも優しい母親を続けられたのです。

私たちはいまだに「贅沢をした」という気持ちは持っていません。金銭的な贅沢ではなく、メイドサービスのおかげで家族仲良く、心豊かに暮らすことができました。ところが、東京に戻ってきて同じようなサービスを探したけれど、なかったんです。それで、私たちが受けたのと同じようなサービスを提供する産業を創ろう! と決めました。

森:昔は家事をやってくれる人は「家政婦」のイメージでしたが、「家事代行サービス業」という名称にしたのは、何かこだわりや理由があるのでしょうか?

髙橋:夫の発案で「単に会社を作るのではなく、世の中に新しい分野の産業を作ろう」と決めました。でも、新しい産業だから名称がないんですよ。

政策金融公庫にプレゼンに行くとき、2人で歩きながら「どういう名称の業種にしようか?」「家事を代わりにやるのだから、家事代行サービス産業がいいんじゃないかな」と話し合って、決めました。今では「家事代行業」という言葉は一般にも広まっていますが、この名称はベアーズから生まれました。

前例のないチャレンジにも臆せず飛び込む

森:軌道に乗るまではずいぶん苦労されたのでは?ブレイクスルーポイントはいつごろでしたか?

髙橋:他人が家に入って家事をやるという考え方を、人の頭や心の中でどうイノベーションさせていくのかが大きな壁でした。今でも毎日がブレイクスルーポイントだと思っていますが(笑)、創業から5〜6年後、2003年ごろから世の中の風がガラッと変わったのを感じました。

それまでは親も友人も親戚も銀行からも「産業化をめざすなんてとんでもない」「いつまでもつか」などと言われていました。
でも、その時期から「着眼点がいい」「社会貢献に近い」と言われ始めて、あれ? 世の中の風の流れが変わったな、と感じました。

森:そのころ、世の中の意識が変わる出来事があったのでしょうか?

髙橋:厚生労働省が認定した子育て支援事業「次世代育成支援対策推進法」が2003年7月に公布されたのが、大きなきっかけです。

「次世代を担う子どもたちが健やかに生まれ育成されるために、事業者も取り組みを行うように」ということで、従業員301人以上の企業では、2005年3月末までに具体的な行動計画の策定が義務付けられました。

我々の仕事はB to C(Business to Consumer=会社から個人消費者への販売事業)ですが、国が政策として「子育てしながら働きやすい企業作り」を打ち出したので、私たちのような事業への関心が高まったわけです。

つまり、それまでは企業の福利厚生は宿泊施設の割引やレジャーに対する補助金が中心でした。でも、「新しい形の福利厚生として、家事代行サービス業者と提携して社員の暮らしを支援したらどうか」というアイデアが出てくるようになったのです。

森:なるほど、国の打ち出した方向性自体が御社の追い風になったわけですね。では、そのころから企業との提携が順調に増えていったのですか?

髙橋:ベアーズの個人顧客だった某企業役員の女性から呼び出しがあり、不手際を怒られるのかと緊張して出向いたところ(笑)、「役員というポジションになって出産することになり不安だったが、家事だけでなく子どもの発熱時にも対応してもらって、本当に助かった。

この素晴らしいサービスをうちの従業員にも使わせたい」と言っていただいて。とりあえず「検討します」と会社に持ち帰りましたが、こんなチャンスを逃す手はありません!

契約もそこそこに、すぐ「わが社には法人会員があります」と発表しました(笑)。その企業様が法人会員1社目です。また、「自社の大切な顧客への付加価値サービスとして、ベアーズと提携したい」という話も舞い込むようになりました。

つまり、社員向けではなく、顧客に喜んでもらうサービスの1つとしてベアーズの家事代行を選んでくださったのです。こうして、企業の福利厚生の一環として仕事をいただいたり、いろいろな業種の会社が家事代行というサービスを活用してくれるようになったころから追い風が吹いて、おかげさまで家事代行サービス業が一般にもだいぶ認知されるようになりました。

そもそも家事代行という概念は日本になかったわけですが、私は過去の事例や実績はまったく気にしていません。時代の流れに敏感になり、新しい案件にも臆せず挑戦することで、どんどん新しい扉が開けてきたと感じています。

 

女性のチャレンジ精神を大切にするには ベアーズ専務取締役 高橋ゆき氏に訊く【中編】