リーダーシップは生まれ持った資質ではない リーダシップコンサルティング代表 岩田松雄氏に訊く【前編】

guest
岩田 松雄●いわた まつお
日産自動車で、生産、品質、購買、財務、販売などいろいろな分野での現場経験をする。 外資系コンサルのジェミニでは、主にクライアントのトランスフォーメーション(リエンジニアリング)を指導する。
日本コカ・コーラでは、購買を通じ、コスト削減に大きな実績をあげる。経営者として、3期連続赤字のアトラスのリストラクチャリング実行と成長戦略の策定により黒字化、タカラでの子会社再編し、イオンフォレスト(THE BODY SHOP JAPAN)では、ブランドを再生し、売上・利益を倍増させた。 スターバックスでは、新商品のローンチ、ニューマーケット開拓、新チャネル開拓を成功させ、再成長軌道に乗せる。 経営において「人がすべて」の信念の下、人を大切にする経営を掲げ、従業員のモチベーションアップを再生、再成長の原動力にしてきた。

 

interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

リーダーシップスタイルを使い分ける。

森:岩田さんは「リーダーシップコンサルティング」を主宰され、 リーダーシップやマネジメントに関する多くの著書もあります。そもそも、リーダーやリーダーシップについて興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?

岩田:最初に思い出すのは、小学校の頃ですね。

当時私は近所のガキ大将として常にたくさんの子を引き連れていたんですが、ある日ドッジボールの輪に入れてもらえなかったんです。そのとき、自分はみんなから好かれていないことに気がついて、とても悲しい思いをしました。

その時に人に好かれる、周りがついてくるってどんなこと? と漠然と考えました。そして、突然補欠の私が高校の野球部でキャプテンに指名され、苦労した経験ですね。

キャプテンとしてみんなを引っ張っていかなければいけないのに、なかなかうまくいかなくて思い悩みました。今では、スターバックスでCEOをつとめたことと同じくらい、野球部のキャプテンをやれたことを誇りに思っています。このときの大変な体験が、リーダーシップを考えるきっかけになったと思います。

森:経営者として、求められるリーダーシップとは、どんなものだとお考えでしょうか。

岩田:リーダーシップを生まれ持った個人の資質や特性のように思われがちですが、すでに1950年代のリーダーシップ研究で、そうではないという結論が出されているんですね。

私がいちばんしっくり来ているのは1970年代に発表された条件適合型リーダーシップ論です。リーダーシップには指示型、支援型、参加型、達成指向型の4つの型があり、一人のリーダーでも「環境的な条件」「部下の条件」によって、異なるリーダーシップを使い分けることが有効だというものです。

たとえば、明日の課題を達成するためなのか、10年先のビジョンを考えるのか? 会社が危機的状況なのかどうか? によっても、リーダーに求められるものは違いますね。また部下の中には細かく指示されるとやる気をなくすタイプもいれば、指示を具体的受けたほうが動きやすいという人もいます。

相手や状況にあわせてリーダーシップをとり、あるときは一歩引いて適切なタイプのリーダーに任せるなど、ひとつの型にとらわれないほうが良い結果を生むと思います。

自分のあり方を突き詰めると、人はついてくる。

森:岩田さんはスターバックスをはじめとするさまざまな企業で社長を経験されていますが、ご自身はどのようなリーダーだったのですか?

岩田:相手によって感じ方もさまざまだと思いますし、また、そのときの会社によってアプローチも違っていましたね。アトラスのときは3期連続の赤字で大きな変革の必要があったので強く牽引しました。

逆にスターバックスでは、少し業績に陰りはあったものの、素晴らしい会社だと思ったので、出来るだけ自分を押さえるようにして、皆が「スターバックスの原点に戻れる」ようにサポートしました。

森:会社を変えなければいけないのか、もともとあるものを磨き直すのか、その違いですね。

岩田:これは実話なのですが、スターバックスのCEOに就任し、半年くらい経ったとき、日本のスターバックスの創業者から
「岩田さん、一歩下がってもっと周りの話を聞いてあげなさい」と言われました。

ところが次の週、シアトルでスターバックスの創業者であるハワード・シュルツに会うと「マツオ、一歩前に出て、もっと思い切って周囲を引っ張れ」と…(笑)。

「いったいどうすればいいんだ」と思いましたが、自分は創業者でもハワードでもない、自分は自分にしかなれないから、自分のやり方でいくしかないと腹をくくりました。

森:その会社、その状況にあわせて、いま自分がリーダーとしてやるべきことを見極め、それを全力でやる。それが、リーダーに必要な心のあり方ということですね。

岩田:そうですね。 リーダーシップって、「この状況ではこうしなさ い」といういわゆるスキルのように思われがちですが、私は、その前に人格、人を治める前に自分を修めることが必要なのだと思います。

「“It is much more important how to be good rather than how to do good.”(いかに善を成すかというよりも、いかに自ら善く在るかということの方がより大事である。)」という言葉があります。人に何かをさせる前に、自分はリーダーとして、人としてどうあれば良いのか、何ができるのか。

このto be good、いかに自分が善くあるかを突き詰めた結果、自然に人がついてくるものだと思っています。

リーダーシップは生まれ持った資質ではない リーダシップコンサルティング代表 岩田松雄氏に訊く【前編】