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弘兼 憲史●ひろかね けんし
社会派漫画家。
1947年山口県生まれ。1970年早稲田大学卒業後、松下電器産業に入社。1973年に退職したのち、1974年漫画家デビュー。代表作『島耕作』シリーズ(マンガ誌『モーニング』)は課長からスタートし、現在は会長編を連載中。2007年には紫緩褒章を受章。また、文化放送の『ドコモ団塊倶楽部』、ニッポン放送の『黄昏のオヤジ』ではパーソナリティを務めるなど、多方面で活躍している。
interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。
日本が輝ける分野とは? 新時代の「農業」に注目
森:企業にとっては、生きにくい時代が続いています。弘兼さんの目で見て、これから日本のビジネスはどう動いていくとお考えですか。
弘兼:「モノづくりの日本」と言われますが、労働力と電力が不足し法人税も高いとなれば、今後国内でのモノづくりはいっそう厳しくなるでしょう。
今は垂直統合といって分業化が進んでいます。島耕作の会社では最終製品の生産は東南アジアの工場に移すとともに、日本の強みであるデバイスや部品を他国・他社へ積極的に提供し、韓国や中国メーカーの製品が売れれば売れるほど日本の部品も売れるというビジネスモデルを取り入れています。では、モノづくりが海外にシフトしたら国内では何をするか。僕は今一度農業にかえればどうかと考えます。
森:農業ですか。
弘兼:この狭い日本でと思われるかもしれませんが、実は世界の農業輸出国を見ますと、2位はオランダです。土はなくてもビルで水耕栽培をやったり、バイオや遺伝子組み換えなど、農業には多くの可能性が考えられます。土を使い、ハイテクの頭も使うということで、日本が非常に得意そうな分野だと思います。
森:私も非常に興味があります。私の会社はITですが、農業にも大きく貢献できると考えています。
農業に何十年もかかわっている方々のノウハウを数値化して、農家の人の経験にコンピューター技術が合わさることによって、また日本が輝ける新しい分野ができるのではないかと。
弘兼:そのとおりですね。『島耕作』の取材でフランスのボルドーに行ったとき、ボルドー大学の醸造科を卒業した人たちがステンレスの樽で温度や発酵の調節をするようになってから、不作の年でもおいしいワインがつくれるようになった話を聞きました。
つまり、農業は科学の世界でもあるのです。島耕作も今後経団連や経済同友会で委員会活動に携わりますが、「農業再生委員会」なるものをつくって日本の農業を支援する予定です。
利益は追求するものでなく、社会からいただく報酬である
森:変わっていく時代の中でも、企業は存続し続けなければなりません。企業が大切にすべきものとは何だと思いますか。
弘兼:企業は利益追求集団ではいけないと思います。これは松下電器の創業者である松下幸之助さんの教えです。
利益は追求して出るものではない、自分の与えられた仕事を一生懸命やり、その結果、社会からいただく報酬であると。その考え方は僕の中にも植えつけられていて、マンガを描くときも今これが流行りそうだから描こうではなく、何かを一生懸命描いて、それがおもしろかったら売れるのだと思っています。
それと、企業がある程度の規模になったらCSR、社会貢献や社会的責任を果たすこと。会社は社長のものではなく従業員や株主、地域のものでもあります。
地域ではそこに雇用を生み出し、これは海外でも同じで、日本企業が入ったら現地の人も喜ぶウィンウィンの関係をつくることです。どことは言いませんが、現地の人たちを差し置いて、利益を持って帰ろうという考え方は良くないですね。現地の次に自分の利益という誠実な日本らしい精神はなくさないようにしたいですね。
森:最後に、これからの弘兼さんについて。『島耕作』はいつまで描き続けますか。
弘兼:『島耕作』のスタートはオフィスラブもので、次第にスーパーサラリーマンになり、時代や経済とリンクさせてリアルな世界を描いてきました。
僕としては、いつも実際に起きることを先にマンガでやってしまおうという野望があります。実際にパナソニックと三洋電機が合併したり、取締役の海外赴任が今では当たり前になったりと、ずいぶん先行したなというエピソードがありそれが快感でもあります。
これからも、自分自身もおもしろがって描いていきたいですね。島耕作は会長ですから規定上はそのまま何十年やっていてもいいのですが(笑)、自分が描けなくなるまではライフワークとして続けたいと思っています。僕と同い年ですから、まず70歳まではやるんじゃないかな。今のおやじは元気ですからね。
森:まだまだ楽しめますね。弘兼さんと島耕作のこれからの活躍を期待しています。今日はありがとうございました。