上司と部下とのよい関係づくりとは? 社会派漫画家 弘兼憲史氏に訊く【中編】

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弘兼 憲史●ひろかね けんし
社会派漫画家。
1947年山口県生まれ。1970年早稲田大学卒業後、松下電器産業に入社。1973年に退職したのち、1974年漫画家デビュー。代表作『島耕作』シリーズ(マンガ誌『モーニング』)は課長からスタートし、現在は会長編を連載中。2007年には紫緩褒章を受章。また、文化放送の『ドコモ団塊倶楽部』、ニッポン放送の『黄昏のオヤジ』ではパーソナリティを務めるなど、多方面で活躍している。

 

interviewer
森 啓一●もり けいいち
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長。
監査法人、税理士事務所を経て、1998年にフォーカスシステムズに入社。常務取締役管理本部長兼経営企画室長を務め、11年より現職。

部下から上司にアプローチを。積極的に教えを請え

森:島耕作は多くの女性にも愛されますが、さまざまな上司に認められ、引き上げられてサラリーマンの頂点を極めます。
その過程が痛快ですが、実際に上司とよい関係を築くためにはどのようなものが必要だと思いますか?

弘兼:僕自身はたった3年の会社生活でしたけれど、学生時代は気の合った仲間といられますが、社会に出たら同僚や上司が最も苦手なタイプかもしれない。

あらかじめそう覚悟して、年の離れた人と 積極的に関わろうと思っていました。ある部長は厳しすぎてみんなから敬遠されがちだったのですが…

僕は帰り道でよく話しかけました。最初は驚いていましたが、そのうち胸襟を開いて話してくれるようになりました。そして、若手が到底行けないような料亭に カバン持ちとして連れていってくれたり、 本当にさまざまな勉強させてもらいました。

森:質問されて、答えたくないという上司はいないですものね。慕われればやはりうれしくて、なんでも教えたくなるものです。

弘兼:そうなんです。同じように、部署内の年長の女性からも、話しかけるうちになんでも教えてもらえるようになりました。
あの上司はこうしたら怒るとか、部署内の人間関係とか。

これも役に立ちましたね。つまり、部下から積極的に上司にアプローチしていくことが大切です。今、僕にも多くのアシスタントがいますが、聞かれれば答えるけれど自分から教えにいくことは少ない。

だから、聞きにいったほうが絶対に得です。ぜひ若い人は嫌いな上司でも近づいていって、教えを請うことですね。観察して反面教師にするのもいい。何事もマイナスにはならないですから。

やらされているのではなく、自分が動かすというプラス思考で

森:最近の若い人は、あまり「上を目指す」という志向がないように思います。弘兼さんは、その点はどうお考えですか。

弘兼:確かにそうですね。責任が自分にのしかかるのがイヤなのでしょう。それと、上を目指す、偉くなることについて意味がないと思っている人が多いですね。

最近、若手評論家の方とお話ししたときにそうした話が出て、日本の経済発展や自分の成長は二の次で、最も重要なのはいちばん居心地の良い空間をつくること。それなら競って働かなくてもパソコンひとつで楽しく暮らせる、それはそれでいいのではないかと。

企業で企業戦士となって、自分や家庭を犠牲にして会社や日本経済のために働くことになんの意味があるのだと。

森:今の若者は、そうした考え方に同調する人が多いですよね。

弘兼:ええ。もちろん一理あるし、恵まれている今の若者がハングリーな気持ちにならないのも無理はない。ですが、全員がそう思ってしまうと立ちどころに日本は衰退してしまうでしょう。

やはりもっと大きな気概をもっている人、この国をなんとかしようと思っている人が一部には必要で、その人たちに引っ張ってもらうことが重要だと思いますね。

森:弘兼さんから、今の若いサラリーマンにメッセージを送るとしたら。

弘兼:今は入社した企業に最後までいる割合も減っています。転職するにしろ起業するにしろ、自分を次に売りこめる、ゲームでいえば「アイテム」のようなものをたくさん持っていたほうが有利です。

だから、自分のアイテムを磨いておこうということですね。そして、自分は雇われていやいや働いていると考えずに、この会社の中で何をやれるかという積極的なプラス思考でいきなさい、と。

一生懸命働いて、その結果自分も会社も大きくなるという考え方ができれば、ブラック企業などと言って文句を垂れ流している暇はないはずです。

森:やらされているのではなく自分でやっている、自分が動かしていると考えることが大切ですね。

「利益は追い求めるものではない」社会派漫画家 弘兼憲史氏に訊く【後編】