2012年にガチャガチャに初登場し、800万個という驚異的な売り上げを記録した「コップのフチ子」。ほかにも、スマホスタンド「ここは俺がくいとめる! お前は先に行くニャー!」や「土下座ストラップ」など300万個以上を売り上げるヒット商品を続々と生み出しているのが、株式会社奇譚クラブだ。しき“広報”せいたさんにSNS時代ならではの宣伝法や自由な発想を生む社風、コミュニケーション方法など、販売戦略から会社のポリシーまで、ざっくばらんに話してもらった。
株式会社奇譚クラブ
2006年に設立されたカプセルトイメーカー。土下座ストラップ、コップのフチ子などの「アーティストコラボ」をはじめ、江頭2:50などの「有名人・芸人シリーズ」や、最近では「スマホのおふとん」など、他社に真似できない圧倒的なクオリティと、どこにも無いアイデアで、ガチャガチャ業界を躍進中。
社員と作家の愛があふれる細部へのこだわり
奇譚クラブのカプセルトイには、実際に手にとって初めて分かる「お楽しみ」が隠されている。たとえば「土下座ストラップ」の土下座している人物の表情や「コップのフチ子」のパンチラは、商品写真などでは一切見えないようにしている。カプセルを開けて実物を手にしないと見ることができない「自分で発見する喜び」こそ、ファンの心理を掴んでいる奇譚クラブならでは。どの商品も社員と作家が仕込んだすべての「ネタ」に気づくのは難しいほど、細部にまでこだわっているというから驚きだ。
また、フチ子さんは1シリーズにつき7種類の展開だが、1種類だけ敢えてコップのフチに引っ掛けにくいものを入れている。バランスゲーム感覚で楽しんでいただくという想いをこめているとのこと。また「一部のファンの中にはそのバランスの悪いフチ子さんを、いかに早くコップのフチに乗せるかを競って遊ぶ人たちもいます」としきさんは笑う。
こだわりと遊び心が詰まった全商品に共通しているのは「社員や作家の愛にあふれている」ことだ。「社員と作家さんで練りに練って世に出したものばかり。どの商品もどの種類も、全てかわいい。360度、じっくり楽しんでほしい」としきさんは笑顔で話す。
商品へのこだわりがあふれている!
広告宣伝費ゼロでもSNSで人気が拡散
奇譚クラブでは毎月5アイテムほど新商品を発売するが、「10名たらずの弱小メーカーですので、1つひとつの商品に対する宣伝予算はない状態で…」としきさんは話す。
広告宣伝費ゼロにも関わらず続々とヒット商品が生まれているのは、SNSを活用した宣伝戦略の成果だ。ガチャガチャの最初の楽しみはどれが出るかとワクワクしながら回し、取り出す瞬間だろう。しかし、奇譚クラブの商品は入手後の楽しみのほうが大きい。なにせ「人に言いたい! 見せたい!」という好奇心をくすぐるネタが満載だから、「商品を撮影してツイッターやフェイスブックにアップする→見た人がリツイートしたり、いいね! したりする→自分でも購入して商品をアップする」と、クチコミ方式で商品の写真が拡散し、広告以上の効果を生んでいるのだ。
買った人の想像力をかきたてる商品の作りも戦略の1つ。たとえばフチ子さんの表情は1種類で、笑ったり怒ったりしているフチ子さんはいない。買った人が自分で作ったシチュエーションの中にフチ子さんを取り込み、イメージをふくらませて楽しむことができる。奇譚クラブでは「商品を写真に撮ってアップしよう」というキャンペーンや写真コンテストも随時開催し、購入者がユニークな構図を競い交流する場も設けて話題をさらに広げている。
これは難しい…!
自由で風通しのいい職場だからユニークな発想が生まれる
古屋大貴社長は、よく社員に「会社にいても新しい発想は生まれない。外に出て遊んだり芸術に触れたりしてこい!」と話すという。外に出て人や売場を見たり、美術館に行ったりして流行を肌で感じ、感性を磨くことでユニークな発想が生まれるからだ。
月1回、全員参加の飲み会を開いてコミュニケーションを図るのも奇譚クラブのルールの1つ。ここでも、同社ならではのユニークな仕掛けが光る。幹事は社員が月一当番で担当し、「すっごい厚切りのお肉屋さん」「キノコしかでないレストラン」など、とにかく当番が行ってみたい面白そうな店をチョイスする。そこで和気あいあいと社員全員でのコミュニケーションをとっている。
社員全員が一芸を持っていてセンスがある程度まとまっているうえ、こうしたコミュニケーションで風通しもいい。ノルマなしの企画会議も全員参加で商品化の可否を決めるから、その結果も皆で分かち合い、次の商品開発へつなげているのだ。「皆、仲がよくて会社の雰囲気はいたって良好」としきさんは言う。
個性豊かな社員がのびのびと働く、愛と遊び心に満ちた奇譚クラブは、今後も私たちをクスッと笑わせる斬新な商品を世に送り出してくれるに違いない。