すべての人が学び続けられる教育インフラを作り、世の中から卒業をなくすという理念を掲げてインターネット生放送による動画学習サービスを提供する「schoo(スクー)WEB-campus」を立ち上げた森健志郎さん。2012年に始まった動画学習サービスは、講師と学生、また学生同士が双方向でコミュニケーションを取りながら授業を展開するユニークな形式で話題を集めた。現在の会員数は13万人にも及び、今後はさらに幅広い展開をにらんでいる。起業から現在までのエピソードや今後の展開について話を伺った。
株式会社スクー
2011年創業。多彩なジャンル・業界の第一線で活躍する「先生」が登壇する1500本以上の生放送・録画授業を受講できるコミュニケーション型動画学習サービスを提供。WEBデザインの知識と技術を学べる「WEBデザイナー学部」や、ビジネスの現場で英語が使える人材を目指す「グローバルビジネスパーソン学部」、IT領域での起業から資金調達まで学べる「スタートアップ学部」など、毎月100本以上の生放送授業が開講されている。会員数は約12万人。
生放送のリハーサル風景
IT企業の講師による情報拡散で一気に7000人の会員を獲得
「世の中から卒業をなくし、イノベーションを起こしたい」という思いを実現するため、森さんは2012年1月に、生放送によるインターネット動画学習サービスの会社「スクー」を立ち上げた。eラーニングで挫折した体験を持つ森さんが最初に手がけたのは、「自分が学びたいIT業界や起業について学べるコンテンツを作ること」だった。
先輩起業家を訪ね歩き、起業やIT業界についてアドバイスを請いつつ、「動画学習サイトで授業を行ってほしい」と依頼したところ、「予想以上に多くの方が快諾してくれた」と森さんは笑顔を見せる。「オープンプラットフォームで学べる無料動画サービスは日本初。公共性が高い事業だから応援したい、と言ってくださる方もいました」。
さらに講師を引き受けてくれたIT系起業家たちにたくさんのファンがついていることが、スクーに予想以上のメリットをもたらした。彼らがフェイスブックやツイッターで「スクーという会社の無料動画学習サービスで今度、僕が授業をやります!」と書き込みをして、情報を拡散してくれたのだ。おかげで彼らのフォロワーや知り合いがスクーに入学してくれ、会員数は瞬く間に7000人に達した。
先生が分かりやすく教えてくれる
オンライン生放送ならではの双方向コミュニケーションが人気
一般のeラーニングは録画された映像をユーザーが視聴するものだが、スクーの生放送授業は既存の映像授業とは一線を画す。ユーザーはフェイスブックやメールを使って無料で入学(会員登録)し、生放送の授業に「着席」し、意見や質問を授業中に書き込んだり、別のユーザーのコメントに「いいね!」を押したりしながらコミュニケーションを楽しむことができる。先生はユーザーの反応や質問をチェックしながら「この部分はまだ理解していない人が多いから、分かるまで丁寧に解説しよう」と臨機応変に対応したり、ユーザーの声や作品をその場で紹介・添削しながら授業を進めることもできる。「一般的なeラーニングは、地方在住だったり子どもが小さいといった理由で塾や予備校に足を運べない人が“オンラインでも学べる”という代用手段でしかなかった。でも、スクーの授業は“オンラインだからこそできる”ことを追求した。その結果、双方向コミュニケーションが生まれたのです」(森さん)
コンテンツ作りは課題ありきだ。まずディレクターが「WEBデザインを学べるコンテンツ」「起業家向けの確定申告講座」など需要のある課題を見つける。そして、その課題に適した先生に授業を依頼して、一緒にカリキュラムや授業内容を詰めていく手法を取る。「新しいコンテンツを立ち上げるとそれに比例して会員数が増え、リピート率は80%以上」というから、ユーザーのニーズを的確にとらえた授業が展開されていることが伺える。
さらに先生からも「ふだんの講演や授業では参加者や受講生の反応は分かりづらいが、スクーの生放送授業はその場でユーザーの反応がダイレクトに見られる。自分では“これを話すと食いつきがいいだろう”と思っていても実際は反応が鈍かったり、意外なところで盛り上がったり。ユーザーからのフィードバックは貴重なデータです」という声が数多く寄せられているという。先生も学生も独自の体験ができるのが、他の追随を許さないスクーならではのメリットだろう。
今後の展開が楽しみだ
スクーで人生変わった人も。今夜はさらなる動画学習を周知したい
森さんが1人で起業したスクーは着々とコンテンツや会員数を増やしている。現在は社員18人とアルバイト15人を擁し、会員数12万人を数える。
- 会社で庶務を担当していたが、クリエイティブな仕事を希望してスクーで3か月WEBデザインの授業を受けてデザイナーに転職した女性(長野県・40代)
- スクーで宇宙の授業を受講してから宇宙の仕事に就きたいと熱望し、猛勉強を開始。東大に現役合格を果たし“絶対に宇宙工学のゼミに入ってみせます”とスクーで授業を開講した先生に手紙をくれた大学生(愛知県・10代)
など、「スクーのおかげで人生が変わった」という声も続々と寄せられ、まさにユーザーの中で森さんが目指した「イノベーション」が巻き起こりつつある。
森さんの次なる目標は、インターネットによる学びを広く周知し、利用者を増やすことだ。今年はこれまでに作ってきた約1300講座を編集したコースやカリキュラムを整備し、学校の授業や企業研修、生涯学習施設での導入を働きかけていく。「秋までに会員数を40万に増やすと同時に、オンラインで学ぶことのメリットをさらに周知して収益化にもつなげていきたい」と大きな夢を語る森さん。時代の波を的確にとらえたコンテンツが日本中に広がり、全国各地でイノベーションを巻き起こす日はそう遠くないのかもしれない。