双方向のコミュニケーションがとれる動画学習サービスで学びの垣根を取り払った 株式会社スクー【前編】

2012年にインターネット生放送を活用した動画学習サービスが立ち上がった。サービスを提供しているのは「世の中から卒業をなくす」という壮大なビジョンを掲げる会社「スクー」。DVDや録画編集された映像を通して学習するeラーニングとは似て非なるサービスが人気を集め、会員数は12万人にも及ぶ。弱冠26歳で起業した社長・森健志郎さん(現在28歳)に、起業から現在までのエピソードや今後のさらなる展開について話を伺った。

株式会社スクー

 

2011年創業。多彩なジャンル・業界の第一線で活躍する「先生」が登壇する1500本以上の生放送・録画授業を受講できるコミュニケーション型動画学習サービスを提供。WEBデザインの知識と技術を学べる「WEBデザイナー学部」や、ビジネスの現場で英語が使える人材を目指す「グローバルビジネスパーソン学部」、IT領域での起業から資金調達まで学べる「スタートアップ学部」など、毎月100本以上の生放送授業が開講されている。会員数は約12万人。


12万人の会員を支えるスクーのスタッフたち

授業中に先生と受講生たち交流できる新発想の動画学習サービス

 予備校や塾などが手掛ける映像授業は、現地に足を運べない生徒が「インターネットやDVDでも予備校(塾)と同じ授業を受けられる」のが魅力。交通の便が悪い場所や田舎に住んでいる人も、大都市圏の人と同じ教育を受ける機会を持てるメリットがある。企業研修や資格取得に使われる映像授業も自宅で好きな時間に視聴できる便利なツールとして普及している。

 しかし、スクーの動画学習サービスはそうした一方通行の映像授業とは一線を画す。生放送の授業中に先生と受講生、そして授業を受けている受講生同士がコミュニケーションを取ったり質問したりすることができる“双方向の授業”を展開しているのだ。

 そのアイデアを形にしたスクーの代表取締役社長・森健志郎さんは「前職のリクルート入社2年目の終わり、2011年3月にeラーニングのマネジメント研修を受けたのがきっかけでこのサービスを思いついた」と4年前を振り返る。「研修用DVDは、講師の男性がカメラ目線で一方的にしゃべり続けるだけ。勉強が好きな人や頑張って学ぶ意欲のある人にはいいかもしれないが、僕には苦行でしかなかった」


動画学習サービスを熱く語る代表取締役社長の森さん

eラーニングの苦行で気づいた「世界中の学びの課題」

 結局、10時間のうち7時間は早送りしてレポートだけ出すという本末転倒な結果に終わったものの、森さんには「学びたくても学べていない課題は世の中にたくさんある」という大きな気付きがあった。「僕の場合は、授業の内容が単純に面白くなかったために学べなかった。ほかにも、意欲や学力が高くても育児中などで時間がなくて学べない人、アフリカで水汲みなどの家事労働に従事していて学ぶ時間がない子どもたち、そもそも自分が学ぶべきだと気づいてない人も含めて、学びを妨げている課題とそれによって学べていない人は世の中に溢れている。それを全て解決して世界の70億人が学ぶべきものに出会い、実際に学ぶことができたら、社会のイノベーションスキルがさらに上がって、もっといい世界になる。学びの課題を解決すれば、だれでもずっと学び続けられて、世の中から卒業がなくなる」――eラーニングの1回の視聴で、森さんの思いは一気に「世界をよりよくする」ことにまで及んだのだ。

 それは、米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が生徒と議論しながら授業を進める『ハーバード白熱教室』(NHK)を見て「こんな授業なら僕も受けてみたい」と感じた矢先の出来事。おりしも東日本大震災で森さんが携わっていた広告の仕事が軒並み自粛となり、時間とやる気を持て余していた時期とも重なった。さまざまな偶然の出来事の中で、eラーニングが引き金となって森さんの熱い思いが一挙に加速した。

 「会社の課題として与えられたeラーニングのDVDを見た翌日に辞表を出しました」(森さん)


自社のかわいいキャラクター

起業を決意した翌日に辞表を提出し一歩を踏み出す

 引き継ぎのために半年間は会社を続けながら、並行して起業の準備もスタートさせた。まずは自分が感じた「楽しく学びたい」という課題を解決するため、「動画学習サービス」で創業することを決意。「とはいえ、IT業界も起業のことも分からないから、仲間が必要でした。“世の中から卒業をなくす”ため、schoolの最後のLを取ってschoo(スクー)と会社名を決定。このビジョンを踏まえてパワーポイントで5枚のプレゼン資料を作成し、仲間を募りました」。

 2011年10月に森さんは1人で創業したが、森さんの掲げるビジョンに共感したデザイナーやエンジニアがボランティアで協力し、森さんの脇をしっかり固めた。しかし、オープンプラットフォームで学べる動画サービスは国内初。まず先生を揃えるべきか、先生が揃う前に学生を募集すべきか――「鶏が先か卵が先か」の命題さながらの悩みを解決するために、森さんは先輩起業家を訪ね歩いた。

 「起業して世界を変えるという思いを実現するためには、道筋を決めてできるまでやるしかない。結果は分からないけれど、そのプロセスを僕自身が楽しんでいたから、苦しい状況に陥っても気持ちが折れることはありませんでした」と森さんはまっすぐな視線で力強く語る。とはいえ、軌道に乗るまでの数か月は辛酸をなめたのも事実だ。前職のリクルートでは何度もMVP賞を獲得したほど優秀な営業マンだった森さんだが、独立・起業して数か月はほとんど収入がなくなり、「アメ玉だけで3日間しのいだこともあります」と当時を振り返る。それでも揺るがない森さんの確固たる信念が、現在のスクーにつながる道を徐々に切り拓いていった。

後編は立ち上げの苦労を経て協力者を増やし、事業を確実に伸ばしてきた現在までの軌跡と、生放送中に自由に質問したり、先生と受講生、受講生同士でコミュニケーションを取りながら授業を受けられる斬新なシステム、そして今後の展望をご紹介します。

 

動画学習で人生が変わる 株式会社スクー【後編】