誰もが住みたい部屋にすめるように 株式会社アールストア【後編】

デザイナーズマンションやリノベーション物件だけでなく、築古でも眺望抜群、改造OKなどユニークでおしゃれな物件を紹介する不動産サイト「R-STORE」が注目を集めている。不動産業界の風習を打破し、店舗を持たない経営スタイルなど新しい営業手法を開拓している不動産賃貸の会社アールストアの社長・浅井佳さんに、独自のこだわりを貫く手法や今後の事業展開について伺った。

株式会社アールストア

 

2009年設立。賃貸不動産のサイト運営、物件の仲介・管理などを行う。東京23区を中心に顧客のニーズに合った価値ある賃貸物件をセレクトし、実際に現地に足を運んで取材・撮影してウェブサイトで紹介。現地への案内から契約までを1人の営業マンが一貫して担当する。物件の住所などもすべて公開し、内覧時は現地解散・現地集合など、従来の不動産業者とは異なる手法に取り組んでいる。


住めば都!? 自分の嗅覚を信じていざ、取材へ

物件には必ず足を運び紹介に値する部屋のみ掲載

 これまでの不動産賃貸は、顧客が店舗に足を運び「駅徒歩10分以内」といった条件を提示して物件を探してもらう形式が主流だった。しかし、アールストアは店舗を持たずサイトで物件を紹介するスタイルだ。「店舗にコストをかけるより、膨大な情報の中から本当にお勧めしたい物件を選び取って紹介することに重点を置いている」と浅井さんは胸を張る。

 営業社員は物件データベースの中から「これは」と思う物件を探して実際に足を運び、物件の良し悪しを自分の目で確かめる。交通費をかけて見に行っても「紹介に値しない」と判断した物件は、心を鬼にしてリストから外している。量ではなく質にこだわり厳選した物件を紹介し続けた結果、2009年の会社設立当初は問い合わせが月に数件だったが、現在は1,000件を超えるまでになった。20人の社員は毎月のべ600人の顧客を物件に案内する。

 「物件で集合・現地解散が基本で、その日のうちに契約を促すような営業はしていません。普通の不動産屋は店を訪れた10人のうち5〜6人成約させるのが目標ですが、わが社の成約率は2割程度。でも、10人の顧客の半分が成約するより、1,000人の人にサイトを見てもらって20人成約するほうが、ネット時代らしい集客の仕方だと思っています」


ひとつひとつ自分の目でみて紹介ページを作成

広告宣伝費にお金をかけず人材育成に力を注ぐ

 同業他社も等しく同じ物件の情報を持っているので、勝負のポイントは情報量と人材だ。営業社員は一眼レフカメラと三脚を持参して部屋をいろいろな角度から撮影し、詳細な情報をサイトにアップ。「眺望がいいとは言えない」「低層階なので日当たりは今一つ」など、よくない情報もきちんと開示する。数か月ごとにプロのカメラマンに撮影のてほどきを受けるなどクオリティアップにも余念がない。

 人材育成や情報収集にはお金を惜しまないが、広告にはお金をかけない。「従来の不動産屋ではニーズに合った物件を探せなかった人が当社で“こういう部屋に住みたかった”と思える物件に出会い、友だちに広めてくれるケースが多い」と浅井さん。その結果、ツイッターやフェイスブックなども含め、クチコミでサイトを知って訪れる人がほとんどだという。

 また、浅井さんは20人の社員と密にコミュニケーションを取ることを日ごろから心がける。社員が探してきた物件について意見を交わすことで社員の見る目が養われるし、浅井さんの思いを伝える機会にもなり、マインドが共有できる。ぶれない方針、実直な営業スタイル、口コミでの広がりが信頼につながり、右肩上がりで売り上げを伸ばしている。


契約が成立するとこんなうれしいハガキが

外国人向けの不動産サイトやシェアオフィスを展開

 現在は外国人向けの不動産サイトの立ち上げにも着手している。これまでも毎月何人かの外国人の家探しを手伝ってきたが、連帯保証人がいなかったり外国人NGのケースもあり、契約が難航することも多かった。しかし、今後は東京五輪開催に向けて日本で職に就く外国人の増加も予想される。「外国人向けの住居を提供する会社と連携したり、平屋で縁側がある物件など外国人に喜ばれるちょっと気の利いた物件を紹介する英文サイトを立ち上げ、外国人向けのサービスを拡充したい」と浅井さんは目を輝かせる。

 また、「不動産業だけでは発想に限界がある」と感じ、ウェブ企画・制作会社のLIGと提携して2014年9月には東京・上野にシェアオフィス「いいオフィス」をオープンさせた。1日単位や1カ月単位でのレンタルが可能で、会議室も利用できる。オフィス中央に配した大きなオープンキッチンは料理を作るだけでなく利用者同士の交流の場にもなっている。

 不動産賃貸業の発想を超え、外国人の住環境から職場環境にまで視野を広げて事業を拡張している浅井さん。今後のアールストアの事業展開に、ますます期待と注目が集まっている。


「R-STORE」の挑戦はまだまだ続く!